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修斗の目が大きく開いた。
とはいえ基本の不機嫌顔は相変わらずだけど。
「…………」
「………ないなら、いいですー…帰りますからぁ」
「…お前の仕事の早さによるな」
ふて腐れたように呟くと、今日はじめて修斗が口端をあげて笑った。
笑っても意地の悪そうに見えるのは心が反映してるからか?
「…期待しない方がいいと思いますよぉ」
「始めからしてない」
その言い草を聞くとさっき気まぐれで顔を覗かせた、手伝ってもいいという感情も萎びていく。
押し付けがましいながらも、一度素直に礼くらい言ったらどうだと思い、風紀委員長がいるのをすっかり忘れて顔をしかめると。
「なーにーぃ?二人ともある意味息ピッタリ、コント見てるみたいだよぉー?」
委員長がにへらと笑って俺と修斗の間に遮るように立った。
「俺って一応風紀だからさあ〜、ケンカしないよぉに仲裁しないとね」
そういってまず俺の方に体を向けた委員長は俺の頭に手を伸ばしそのまま撫でた。
「そんな怖い顔したらせっかくの美人が台なしだよぉー?」
高い位置から見下ろされ、身長差を感じさせられるとともに、剛と知り合って最初のころの、頭を撫でられてじれったかった感じが蘇った気がした。
そんな俺の心の内を知るはずもなく、俺を宥めようとなんとなく修斗の悪口を言う委員長。
「ああいう横暴男がなんで一位なんだろうねぇ?みんな中身には興味ないのかなあ〜」
「…てめぇケンカ売ってんのか?」
「俺は今怜くんに言ってるんですぅ〜」
ねぇ、と首を傾けられ正直俺もそう思うので頷きたかったが、後ろから蛇のように睨んでくる視線に、曖昧に笑うしか出来ない。
本当に、こんな男のどこがいいのか分からない。
(まあ、俺も少し前までは浮気されても多少は仕方ないって思うくらいは、好きだったが)
ちょっとワルそうなものに心を惹かれる時期は誰にでもあるだろう。
きっと、それだったのだ。
「神谷も、いくら自分のところの会計くんが可愛いからってちょっかいかけないのー」
今度は修斗の方を向いて、完全に臍を曲げている上にそんな言葉をぶっかけた。
俺は思わず眉を寄せる。
この横暴な態度をどう捉えたら俺を可愛がっているなんてとれるのか甚だ疑問だ。
「だれがこんなチビを可愛いと思うか」
「そうですよいいんちょー…会長はむしろ俺のこと大っ嫌いですからッ!」
向こう言われる前に言ってやった。
自虐みたいだけど、実際そうだしもう別にいい。
「あららー…ちょっと、怜くんにそんな風に思われてるみたいだけどぉ?」
ねえいいのー?、と修斗の肩を突く委員長の手を払いのけ、修斗はこっちを見ずに吐き捨てた。
「勝手に言わせとけ」
なんだその言い方…むかつく。
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