山本×獄寺 二人で海に来た。俺も山本も、目的を持って生きてきたつもりなのにふと立ち止まってみたら自分の中が空っぽに思えたんだ。空っぽだと気付いたら、それを満たしたくなって、どうにかこうにかしようと足掻いてみる。足掻いたって何も満たされなくて、よく分からずに二人で海まで来た。着いたのは夕方で、人も殆どいなくて、二人っきりと言ってもおかしくはなかった。太陽はどんどんと沈んでいく。海に碇を沈めて、引っ張られていくように。俺達は、砂浜に立つ事無く、崖の上に立った。見渡す限り海で、何処か物寂しい気もしたが、段々と空っぽのそこに海水が流れ込んでくる様に思えた。山本は崖の淵に立った。俺はその背中を見詰める。太陽と姿が被って、黒に見える。眩しい。山本が何か違う物体にでもなってしまったみたいに思えた。 「やまもと」 「なに」 「…何でも無い」 海を見てセンチメンタルな気分になるつもりなんてなかった。感傷的になるなんてちょっと柄じゃない。それと同時に残酷な気持ちになる。太陽を掻き抱いてぐちゃぐちゃにして無理矢理月を引き摺り出したいような。 「やまもと」 「なに」 「落としてやろっか、そこから」 何て無茶苦茶な。 「落としてくれよ」 何て馬鹿馬鹿しい。 次の瞬間、俺の両腕は山本の方へと伸びて、背中を思いっきり押した。勢いのまま山本の体は海に落ちた。どぼん、とかざぱんとかその辺の海が山本を飲み込んだ音がした。俺は崖の下なんて見る気はなかった。どうでも良いんだ。残酷な気持ちが俺を支配している。太陽に背を向けて歩き出した。影が只管長い。 月曜日、山本はいつも通り学校に来ていつも通りに俺に笑顔を向けた。人間、簡単には死なないようだ。 end 090801 main |