獄寺×山本 匂いは色んな記憶を甦らせる。ふとした時に流れてくる匂いは、幼く忘れ掛けるほど前の記憶を再生したり、すぐそばにいる人を思い起こさせる。 山本は太陽に似た匂いがする。晴れた日の青空の下で感じる風の匂い、といっても漠然としているけど、それはそばにいる俺にしか分からないものでもある。 隣りで山本がアイスを食べている。蝉の鳴く木の下に俺達はいた。デートというにはあまりにもだらだらとしている。名前のない時間というのがぴったりだと俺は思う。 「だりー…」 俺はアイスを食べる気分になれず、コーラを飲む。開けたての爽快感はもうどこかに消えて生温くなり、表面からの滴も落ち切りそうだ。 「アイス溶けそう」 溶けそうになるアイスを必死になりながら山本は舐めている。 「お前口でしやがれ」 アイスを咥えながら山本がこちらをちらっと見れば、少し眉を寄せてまたアイスに集中する。 「獄寺偉そう」 「…だりーし」 「あ、当たりだ」 アイスを食べ終え、棒にはあたりと書いてある。 俺達の会話は一向に噛み合わない。違う言語を話しているみたいに。でも噛み合う必要もなくて。 「あとでヤろうぜ」 「えー…暑い」 「お前の匂い忘れそう」 太陽に似た匂い。晴れた日の青空の下で感じる風の匂い。熱にやられて忘れそうな気がした。忘れるはずもないが。 「ていやっ」 不意にアイスの棒を投げ付けられた。若干べたつく。棒を手に取り山本を見れば、ベンチから立ち上がってにこにこしている。太陽に重なって少し眩しい。 「俺んちまでダッシュ」 「…だりぃ」 「早くセックスしよーぜ」 「なんか怠くなった」 「え、何それ」 「なんてな」 ベンチから立ち上がって俺が走り出せば、山本も慌てて走り出した。アスファルトの熱、太陽の熱、俺からも熱。汗が滴る。 山本の家に着いたら、きっと冷房も入れずにヤる。また汗をかく。夏に溶けていく。また匂いを記憶に刻む。 走って山本が隣りにくる。 ふわりと太陽の匂い。 「セックスー」 「バーカ」 end 110227 main |