ディーノ×獄寺 俺は夢の中にいた。夢だとは分かっていたが、夢の中は凄く幸せだった。舞台は、幼い頃にいた城だ。ダンスパーティーが開かれていた。沢山の人が楽しげにホールでダンスをしている。俺は、姉貴のポイズンクッキングを食わされる事無く、幸せな気分でピアノを弾いていた。幸せそうに踊る人々。幸せそうに微笑む親父と義母に姉貴。全てが心地良くて、幸せだった。 そこに何処か、何かが違う、不思議な足音がした。俺は思わずピアノを弾く手を止める。人々は踊るのを止めて足音の方を振り向く。皆の視線の先には、純白のドレスを着た美しい女がいた。ゆっくりとゆっくりとこちらへ来る。近付いて漸く見えた顔に俺は目を見開いた。 母が、いる。 母は真っ直ぐと俺を見つめて、優しい笑みを湛えていた。 「…隼人、」 母は俺の目の前に来た。そっと、白くて、でも少し赤みを帯びた指を俺に差し出す。俺はその手を取ろうとする。その時だった。 視界が真っ赤に染まる。母はホールにいた皆に憎しみの目線を向けられ、俺の目の前に倒れた。何の罪も無い母をすぐに抱き締めた。 思わず、涙が零れた。 俺は目を醒ました。ディーノとベッドで二人寝ていたところだった。ディーノは、もう目を醒ましていたらしく、俺を心配そうに見詰めていた。何となくその目線に耐えられなくてベッドに潜る。未だに赤に染まった母が脳裏にあった。 「悪い夢でも、見たのか、」 俺は何も答えられずにいた。そっと目を伏せて考えてみる。 もし、母が殺されずに済み、俺は未だ城にいたとしたら…。きっとボンゴレに入る事もなかっただろう。きっと、ディーノに出会う事もなかった。きっと今とは全く違う自分がいたに違いない。 もし、俺が母の話を聞かずにいて、何も知らずにいたとしたら、きっと孤独を知って孤独によって強くなろうとなんて考えもしなかった。柔で世間知らずの俺がいたに違いない。 「隼人、大丈夫か、」 「…なあ、もしも俺が、ボンゴレに入ってなかったら、どうなってたんだ、」 「…え、」 「ディーノの事を知る事もなく、生きていたとしたら…、俺はどうなってたんだ、」 問い掛けを繰り返しても、本当の答えは出てこない。いつだって、未来は予測も出来ないし、過去の過ちを正す事も出来ない。深く心を抉るものを消す事も出来ない。 ディーノの長い腕が俺を包んだ。抱き寄せられる。鼓動が聞こえる。生きている音。妙な安心感。 「例えばの話なんか、考えなくったって良いんだ。俺等には今がある。俺と隼人、一緒にいる。出会わない事なんてなかったんだ。……だから…んなに悲しい事言うなよ」 俺を見詰めるディーノの目が微かに揺れる。俺の目からは一筋の涙が零れた。 母さん…、俺は今、きっと幸せです。 end 090124 main |