夏休みの教室へ | ナノ
夏休みの教室へ



terzuoloさまへ提出

山本×獄寺



俺は夏休み、ほとんど毎日の様に部活だった。太陽の光が眩しくて、肌がじりじりする。汗で肌が濡れて、むわりとした風に吹かれる。そんな毎日を過ごしていた。
ある日、校庭から校舎を見たら、教室から誰かが見ているのに気が付いた。窓ガラスが反射して眩しい。手のひらで目元に陰をつくって目を細めれば、獄寺がいた。
用も無い筈なのにいることに驚いた。獄寺が俺をじっと見ていて驚いた。しばらく見詰めていたら、部員に声を掛けられてようやく目線が外れた。

夕暮れ時に部活がやっと終わって急いで教室に行った。まだ獄寺がいるかは分からなかったけど。
教室に行けば一人椅子に腰掛けて眠る獄寺がいた。教室は暑い。獄寺は汗をかいて、額に髪が張り付いていた。

「獄寺、」

声を掛けたら瞼が微かに揺れて目を開けた。俺を見たら小さく笑った。

「野球バカだ」

蜩の鳴く声が聞こえる。外はまだ明るい。

「どうしたんだ、獄寺は部活とかもねぇし」

「俺な、九月にイタリアに戻るんだ」

蜩の声が一瞬遠くなった。驚いて獄寺を見詰めた。日が真横から射し込み綺麗なシルエットをつくっている。思考が上手く回らない。

「え…、じゃあ二学期に獄寺…いねぇの、」

「…ああ」

「……寂しくなるな。誕生日だって、祝いたかった…」

イタリアがどこにあるのか分からないけど、遠くってことは分かる。胸が縮こまっていく。

「じゃあ今のうちに祝ってくれ」

獄寺は笑う。じっと獄寺を見詰めた。いつ見てもやっぱり端整な顔をしていて、俺を惹きつけた。

「……誕生日、おめでとう」

「ん…」

「生まれてきてくれて嬉しかったのな」

「……んとかよ、」

「んとだよ。嘘は吐かねぇから」

獄寺は笑う。笑っているのか泣いているのか分からない表情を浮かべた。くるりと背を向けて歩き出した。

「…イタリアで待ってるから」

獄寺は教室から出て行った。俺は教室に一人。俺は一人になるのが怖くて追いかけた。

きっとまた、獄寺を追いかけて



end





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