新しい惑星願望 | ナノ
新しい惑星願望



山本→獄寺

時雨椿さまへ



今日、獄寺が久し振りに笑った。野球をしていて珍しく空振した俺を見て、歯を見せて笑っていた。その姿を見て、やっぱり俺は獄寺が好きなんだなって再確認。銀髪が太陽の下できらきらして、翡翠色の目もまたきらきらしていて、俺から見たら近くにいるのにとっても遠い存在。不器用で、生きるのが下手なのに、綺麗なんだ。ほんと、大好き。

俺と獄寺は学校の帰りに公園に寄った。その途中でコンビニに行って、今年初のアイスを買った。歩きながら食う。獄寺はチョコアイスを頬張っている。特に話すことも無くて、黙々と食べていた。辿り着いた公園は、青や紫の紫陽花が綺麗に咲いていて、心地が良かった。少し湿気を含んだ空気も嫌じゃない。甘くてしっとりとした匂いがちょっとするんだ。

「山本、」

「え、何」

突然獄寺が俺の方も向かずに俺を呼んだ。獄寺を見たら、上を向いている。俺も上を向いてみる。水色の空に、綿飴を千切ったみたいな白い雲。と、白い月。

「あ、」

「昼間の月だ」

「だな」

月を視界から外してアイスを一口。口の中でゆっくり溶かした。やんわりと冷たさが引く。

「月って太陽の何」

ふと俺は何でも(俺の気持ちは除く)知ってそうな獄寺に訊く。

「子分の親戚か恋人辺りだろ」

「え、何それ。月って惑星じゃないの」

「それは違うぜ、山本。地球が太陽の惑星で、月は地球の衛星だ」

俺は何となく理解した。じゃあ俺は衛星が良い。惑星のがちょっとかっこいいけど。俺と獄寺の関係はきっと月と地球。月が俺で地球が獄寺。遠くて近い距離。縮みもしないし離れもしない。近付ける筈が無い。近付くその時は、地球と月の追突。そんなこと出来ない。

「お前、なにボケッとしてんだよ。アイス、溶けんぞ」

「あ、ああ」

溶け掛けているのに気付かなかった。急いでアイスを食べる。
太陽がツナ。その周りを地球、獄寺が廻る。地球の周りを月、俺が廻る。そうして相関図が書けそう。

「地球と月ぶつかって一緒になったりしねぇかな」

ぽつりと呟く。願望を込めた呟き。

「…そりゃ奇跡に近いな。世界終わりの日。…ついでに始まりの日だ」

「…始まりの日、」

「月と地球が一緒になった世界の記念すべき第一日目だろ。人類が生きているかは別としてな」

俺はアイスの棒をくわえる獄寺の横顔を見詰めた。ちょっと、希望が見えてきた。

世界の終わりの日
世界の始まりの日

もうすぐかもしれない



end





090615
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