chocolate panic | ナノ
chocolate panic



山本×獄寺

カメさま宅から



テーブルの上におかれたチョコ。
パッケージだけが新しくその日のためにデザインされた、いつでもどこでも売ってるただのチョコ。
多分これをここに置いたのは、目の前でTVに夢中になってる男なのだろう。
ぽたぽたと髪の毛から水が落ちるのも気にせずに、そのチョコを見つめたら、少し、吐き気がした。
自分にとって特別なチョコであることを知ってて、なお、吐き気がした。

なぜなら今日かばんいっぱいにオレたちはチョコレートの集合をぶら下げていた。
バレンタインが土曜日だからと気を抜きすぎた、まさか前日にこれほどになるとは検討違いだ。
そもそもバレンタインはあっちではこんなイベントじゃないのだ。
「好きな人に告白する日」というのは日本が勝手にバレンタインという名を借りて作っただけのイベント。
オレたちがこんなふうなことを知る由もない彼女たちはそりゃあもう必死でオレたちにチョコレートを渡してたけど、
気持ちにこたえるつもりもなければ御返しなんて律儀なこともしない。オレたちはそういう最低な男子なのだ。
チョコレート自体は好きな部類なのでありがたいのだけど、そのうらっかわに詰められた想いにオレは耐えられない。
結局食べずにポリ袋にいれられた大量のチョコを尻目に、こいつがくれたチョコを食べるのもなんだかいたたまれない気がする。

男同士なのだからこんなことに気を配らなくてもいいと思う。
はじめてのバレンタイン、こいつはもう本当にきもかった、乙女すぎてきもくて、とりあえず殴った。

もうすぐ午前0時を回って、バレンタインが訪れるけれど、はじまってもないのにうんざりだった。


「何これ」
「あー今日バレンタインじゃん」
「お前そこのコンビニで買っただけだろ・・」
「ばれた?だってさ忘れてたんだよバレンタイン」

はじめてのバレンタインから、2年。
こんなふうになるまでなんてあっという間だ。

「ふうん?」

ビリビリとパッケージのビニールをあけると、山本は口の形を「あ」と動かした。

「無感動に開けんなよなあ」
「オレんのだからいいだろ」
「オレにはねーの、チョコ」
「誰が。」
「じゃあこっち、こっち座ったらゆるしたげる」
「お前いつからんなワガママになったよ、」
「最初から?」
「は、ぶぁーか」

なあ、と手をひっぱられて、隣に並行にすわろうとしたら腰に手がまわってきて山本の上に不時着。
そのままカーペットにだらりと縺れ込む。

「おい、」
「んー?」

そのまま腰にあった手がローテーブルに伸びる。ゆっくり、ゆっくり、伸びる。

「なにしてんだよ、」
「いやチョコ食べようか・・わ!」
「あああ」
「あ〜…」

チョコレートだけを取り出すことができずに箱ごとローテーブルからチョコが散らばる。

「お前ほんとうバカだな」
「ごめん、いいよオレが食べるから、」
そう云ってチョコレートを拾った手をつかんで、そのままオレは指ごとチョコを食べた。
口内でとろけるあまい、もの。その後ろにあるしょっぱくて熱い指の皮。
口の端っこから唾液とチョコレートがまざって流れるのがわかる、やべーきたない。

「ごくでら、今おれすげーやりたい」
「奇遇だな」
「うん、そうなのなー」
「まずチョコ食べてからな。」

また山本の指ごとオレはチョコを口にいれる。
汚れたままの山本の指がオレの体にさわるから、オレはチョコレートまみれ。

ああ、もうこのままどっかいけそう。

女子共にもらった思いも怨念も全部吹き飛ばして、一緒に溶けだそう!!



end





090214
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