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獄寺×山本

松田詩織さまから



 あいつの目で見つめられるのが嫌いだ。真っ直ぐで濡れた膜が張ったように光る目が。
 だからと言ってあいつがその目を他の女に向けるのもムカつくから、無理矢理こちらを向かせて唇を奪う。
 炎天下で野球なんかしてるせいでカサついたその場所は、口内に招き入れてじっくり舐めねぶればたちまち弾力と潤いを取り戻す。薄い皮が向けた唇を舐め、剥き出しの粘膜を味わうのが好きだと言ったら、山本はどんな顔をするだろうか。




 「うう、ん、ごくでら」
 「んー」
 「苦し……っ、んあ」
 「んだよ、情けねぇな」

 山本がそのでかい手で俺の体を突き放そうと暴れる。悔しいことに力ではこいつに敵わないものだから、合わせていた唇は透明な唾液の糸を引いて離れた。
 顎を掴んで口内を好きなように犯していたせいか、山本の息は酷く荒い。目の端に滲む涙。光を湛えたその瞳はいつも以上に濡れて俺を煽る。んな睨んでも逆効果だっつの、バカ野郎。

 「も……なんでだよ」
 「何が」
 「だから……っなんでこんな、キ、キスとか、するんだよ!」

 嫌みなくらいモテるくせに童貞な山本は、女と付き合ったこともなければもちろんキスだって未経験。ちょっと柔らかい舌を吸って歯をなぞってやればたちまち息を乱して腰を笑わせる。
 女を知る前に男とこんな濃厚なキスしちゃって、可哀相な奴だよなお前は。

 「なんでだろーなぁ」
 「ごくでら……っ」
 「イヤじゃねぇんだろ?」

 ここ、反応してんぜ。
 制服のズボンの上から股間を擦ってやると、少しだけ頭を擡げたそこがびくりと震えた。あーあ、耳まで真っ赤にして、カッコ悪いね童貞は。

 「だって、ごくでらが」
 「俺が?」
 「あんな、気持ちいいキス、するから」

 いつもバカ面をさらしてへらへらして、クラスの人気者のこいつが顔を紅潮させて口ごもっている。自分より図体のでかい腹筋の割れたこんな男にちょっかい出して喜んでんだから、俺も相当末期だ。

 「あんな、あんなキスされたら、俺」
 「……んだよ」
 「……期待、しちまうだろ」

 期待? 何の?

 「俺、ごくでらが、その、好きだから」
 「…………」
 「そんな、キスとか……ごくでらも俺のこと好きなのかもって」
 「山本、」
 「でもごくでらは何も言わねーし」

 そこまで言って山本は黙ってしまった。大きな肩を丸めて小さくなって、キモい。でもそんな様子も少しだけ可愛いと思ってしまう俺はやっぱり末期だ。

 ため息をついて煙草に火を着ける。一口目を思いっきり吸い込んでその煙りを山本の顔に吹き掛けてやると、当然のように山本は眉をしかめて咳込んだ。
 さっきとは違う涙がその目に滲んで、ああ、もうやべぇ。どうして俺はこんな奴を。

 「……っごく、」

 煙草を投げ捨て、もう一度山本の体を引き寄せ口付けた。ささくれた唇の皮を歯で引っ張れば呻き声が上がる。

 「は、あ、ごくでら……っ」
 「お前、俺のこと好きなの」
 「…………」
 「だったら、言葉なんかいらねぇだろ」

 そう吐き捨てれば今度は山本からキスをされた。ピンク色の舌が眼下で絡み合う。欲に溺れたその瞳も。

 いつの間にか互いの背中に回した腕が酷く熱を持って、額から汗が一筋伝うのを感じた。



end





090907
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