山本×獄寺 「中学生が煙草吸ってるのは、良くないと思うのな」 俺は狭い路地にいる獄寺を見付けて声を掛ける。獄寺は何人もの倒れた人の上に座り、煙草をくわえ、片手に酒の缶を持っていた。 「俺も同じくそう思う。中学生が喫煙とは何事だ」 獄寺は俺を見る事なく大きく頷く。そして紫煙を吐き出す。口と動きが合っていない。 「あとお酒も良くないよな」 短くなった煙草を椅子にしている人に押し付ける。酒の缶を開けて一息吐いた。 「どんな中学生だよ」 けらけらと可笑しそうに笑って、酒を楽しげに飲む。俺を横目で見て、馬鹿にした様な視線を送ってくる。 「不良はそんなもんかな」 獄寺は首を傾げて酒を一気に飲んだ。缶を壁に凭れて倒れている奴に向けて投げた。見事に頭に当たる。 「不良の知り合いはいねぇから知らねぇけど悪だな」 白々しく言い口笛を吹く。メロディー的に俺達の約束だと思う。 「喧嘩なんてしないに限るよな」 最後の質問をすると獄寺は口笛を吹くのを辞めて俺を見る。下手な笑みを浮かべた。 「勿論だろ。暴力反対。平和が一番だ」 立ち上がって転がってる奴を蹴飛ばし、立ち塞がる俺に邪魔だと言った。 「獄寺、喫煙も飲酒も喧嘩も駄目だって。…な、」 俺がどう言っても獄寺は特に表情を変えない。 「……こいつ等が椅子になりたいっつうから一撫でして椅子にしてやっただけだ。それと俺が喫煙すんのは日常の一部であって、てめえの意思で止めたりしねぇ。ついでに言うとこれは酒じゃねぇ、ジュースだ」 「…獄寺、」 「……分かんねぇのか、俺に何を言っても無駄だって事が」 「……」 「馬鹿。…俺は俺の規則に従って生きてんだよ。…それをてめぇなんかに曲げられてたまっかよ。退け」 立ち尽くす俺を見て、いつも通り馬鹿にした視線を突き刺し、俺の横を通り、歩き出す。 「何処行くんだ、」 「女のとこ」 「何でわざわざ言うか…分かるか、」 獄寺は溜め息を吐いて振り返る。哀れむ様な目をした。でもすぐに皮肉な笑みを浮かべる。 「俺に惚れてるから、だろ」 「…実は俺もこれから女の子とデートなんだよ」 「珍しいな」 「獄寺の敬愛するツナに言われたから、お前に言ってんだぜ。じゃないとわざわざ言わねぇよ」 真っ赤な真っ赤な嘘。 「…、」 「………」 獄寺は小さく笑う。自嘲気味な笑み。でもどこか全部分かっていそうな笑み。ずかずかとこちらに歩いてきて俺の胸ぐらを掴んだと思ったらキスをされる。 不毛な恋だ 獄寺が微かに呟いた。くるりと俺に背を向けて歩き出す。その背が写真の一枚みたいに鮮明に映った。 「惚れてるから、か」 獄寺は俺に惚れているのかもしれない。 俺は獄寺に惚れているのかもしれない。 自惚れがちな俺達。 これから俺は好きでもない女の子とデートする。つまんない話をしながら歩き、最後に告られて断って泣かれる。 これから獄寺は女の子を抱くだろう。不器用だから酷い事言って頬を叩かれる。 繰り返し。 不毛だ。 それならいっそ、 不毛な恋を end 090203 main |