裏切りの輪舞曲 | ナノ
裏切りの輪舞曲



綱吉→山本→獄寺 十年後



世界はお前で、
世界は貴方だった。

「獄寺君、あのね」

「はい、何ですか、十代目。」

いつもの調子で俺は聞き返した。何故なら十代目もいつもの表情で笑っているから。その先に待っていた答えはナイフみたいに鋭利で、そのくせ優しかった。

「俺さ、獄寺君が絶望した顔を見てみたいんだ」

すぐには状況が呑み込めなかった。十代目がそんな事を言うなんて思ってもみなかった事だから。俺は十代目の笑顔を見詰めた。いつもと何も変わらない。憎悪とかそんなものの欠片も見えない。

「何でだろうな…。獄寺君って人一倍自信家だからかも。それにさ、獄寺君ツンケンしてるから、そのせいもあるのかもしれない」

自分の性格なんて気に留めたくは無かった。こんな性格な為にどれだけの人間を傷付けたか分からない。それでも十代目は俺を受け入れてくれたから、目を瞑っていた。

「そういう性格だからさ、沢山の人を傷付けているんだよ。それだから、いつまで経っても片思いのままなんだよ」

片思い、

「気付いていないの、本当に冴えないね、こういう事に関しては」

俺は誰に片思いをしているというのか。
答えは目の前にいる、自分の世界の中心であり、尊敬すべき男が握っていて、

「これからはさ、山本は俺のものだから、ね、」

何かに心臓を握られたみたいに痛かった。嗚呼、馬鹿らしい。今頃俺は気付いたのか。

「今何も思わなかったの。山本はね、獄寺君が好きだったんだよ。獄寺君、この間山本に大嫌いって言ったんだって、」

そういえば、この間の晩に喧嘩したんだっけ。俺の機嫌がただ悪かっただけだった。八つ当たりだ。あいつは何も悪くない。なのに、俺は、

「そうでしたね」

「山本、凄く可哀想でさ、今にも泣きそうな顔して俺のところに来たよ」

俺は、沢山のものをすぐそばから壊していく。壊したくなんかないのに、大切に出来ないんだ。大切に、したいのに。

俺はとんだ馬鹿になった。こんな時なのに「十代目はやっぱり人望に厚いのだ」と思ってしまった。
貴方の事を考えるのは俺の体の一部の様で、煙草によく似ている。
止めたくても止められない。

「そうですか」

冷たい男だ。血なんか通っていないのかもしれない。手首を切ったら青い血が出てくるかもしれない。
俺は少なからず山本に惹かれていた。のかもしれない。気付いても、本当に今更だ。

山本は、俺に無い全てのものを持った男に見える。それだから、惹かれるのだろう。

「絶望してくれないの」

「…残念ながらしませんよ」

「どうして」

「もう沢山の事に絶望して、本当の絶望が分からないんです。もう絶望の仕方を忘れてしまいました」

俺は笑った。どんな顔で笑っているのだか分からない。

「俺がこんな人間でも絶望しないの」

「十代目は十代目、沢田さんは沢田さん、貴方は貴方であって、俺の尊敬する人間に違いありません」

「そう。…獄寺君、あのね」

「はい、何ですか、十代目」

いつもの調子で俺は聞き返した。だって貴方も同じ様にいつもの笑顔だから。



「大嫌いだよ」



「はい」



山本の気持ちが何となく分かった気がする。
お前と俺で違うのは、行く宛てが有るか無いかだ。俺は泣きたくたって行く場所はない。
どんなに寂しくても抱き締めてくれる人間なんていない。



それだけだ。



今、俺は貴方に裏切られて

お前はもう手の届かない場所にいる





俺は世界を裏切った



だから





世界に裏切られた



end





090228
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