ここから出して 俺は学校の玄関の中にいた。扉は何重にも鍵が掛かっていて出られない様だ。普段の並中とは様子が違う。俺は不思議に思って辺りを見回した。外は夕方。橙色の空。入って左には大きな窓。その向こうに校庭がある。誰もいない。入って右手には上に繋がっているであろう階段。俺は何かに誘われる様に階段の方へ歩き、そこを上った。廊下の先に大人ランボがいた。俺を見てちょっと笑う。俺はランボのところまで走った。 「獄寺さん、何処から来たんですか。地下ですか」 「…地下、」 俺は1Fの玄関から来た筈だ。 「ここ、地下もあるのか」 「ええ。応接室が一番下の階にあるんですよ。…上に行ったらどうですか。誰かが獄寺さんを待っている様な気がしますし」 「…」 「…さて、僕は図書館に行きますか」 俺はランボのすぐ隣にある階段を見た。また上に繋がっている。俺はそこを上った。背後からランボの呟きが聞こえた。三階も降りなくては…と。三階くらいどうってこと無いだろ、と思いながら一段一段上る。一段一段上るだけ此処が何処か分からなくなる。上ったら、そこには見慣れた職員室があった。職員室には誰もいない。鎖が何重にも掛けられていて開きそうに無い。職員室を過ぎてまた廊下の奥にある階段まで歩く。この先に誰が待っているというのだろうか。階段を上がってその階を見渡したら、そこは一面真っ赤だった。夕日も真っ赤で、壁も床も真っ赤。階段が何処にあるのか分からない。取り敢えず俺は壁に触れながら先を歩いた。遠近感が消えていく。くらくらする。長く廊下を歩いた気がした。やっと階段が見えた。先に何があるかも分からないのに安堵して階段を上って次の階を見た。廊下の真ん中に骸が立っている。少し体が強張った。俺はこいつが苦手だ。 「おやおや、隼人君。…迷ってきたんですか」 「…知るか。それよりここは何処だ」 骸は俺を見てきょとんとする。次に可笑しそうにクハハと笑った。 「…何言ってるんですか。見ての通り並盛中でしょう」 「何が見ての通りだ。全然違うだろッ、下の階だって真っ赤だし、第一教室が見当たらねぇ」 「教室なら8Fにありますよ。そこに全部の教室があるんです。…毎日使っているのにご存知ありませんでしたか、」 「そもそも並中には8Fなんてねぇだろ」 骸は俺に哀れむ様な目線を向けてから廊下の先にある階段を指した。俺は舌打ちをして骸を一瞥してから階段に上り、次の階に来た。何にもない廊下の先に芝生メットがいた。 「タコヘッドではないか。そういえば、雲雀を見とらんか。さっきから探しているのだが…」 「見てねぇよ」 「いつものB6にいると思っていたのだがどうやら違った様でな」 「…B6…、」 「もう一度B6行ってみるか」 芝生メットは俺の来た方へ行って、階段を下りていった。俺は溜め息を吐いた。ここは何処なんだ。上に上るばかりで此処から脱け出せるのか。もう一度溜め息を吐いて次の階に向かった。次の階には特に目立ったものは無い。ただ、並中の校歌、否ヒバードの声が聞こえてきた。声のする方を見たらやっぱりヒバードがいた。そちらへ向かったら俺から逃げる様にして飛んでいく。窓から見える景色はいつの間にか紫色になっていた。 「おい、何処行くんだよ」 ヒバードはそのまま飛んでいって、次の階まで行った。次の階には教室が並んでいた。教室と教室の間が殆んど無い程沢山教室がある。俺はふと骸の言葉を思い出した。 「何をしてるんだい」 不意に雲雀の声が聞こえた。雲雀はヒバードを肩に乗せている。雲雀の後ろにはエレベーターと思われる扉がある。階の表示は無い。下のボタンのみがある。上には行かない様だ。 「…何って…、」 「もたもたしてると、咬み殺すよ」 「ここから脱け出したいんだ。わけがわかんねぇ」 「君の頭の方がわけ分からないよ。じゃあね」 「待て、ここ何階だ」 「…ほんとに頭おかしいんじゃないの、十四階だよ」 「………嘘だろ」 「じゃあね。僕はいつもの部屋に戻る。笹川が僕を探しているみたいだからね」 雲雀はエレベーターのボタンを押してすぐにエレベーターの中へと消えた。俺ははっとしてからエレベーターのボタンを押したら、そこは僕の指紋でしか作動しないよ、と雲雀の声が何処かから聞こえた。舌打ちをしてもう一度乱暴にしばらく何度も押していたら、ぷしゅーと音を立ててからまたしばらくして扉が開いた。乗り込むと、ゆっくりと上に上がっている様だった。ゆっくりと止まって扉が開いた。その先に瓜がいる。 「う、瓜っ、」 急いで瓜の方へ駆け出したら、瓜は逃げ出した。俺はそれを追う。瓜は美術室の前を通ってから下の階に降りる。エレベーターの扉が視界に入ったが、瓜を追ってまた下の階に降りた。一瞬追い付き掛けて捕まえようとしたら、捕まらずにまた下の階に降りた。すると、もうそこに瓜はいなかった。俺は溜め息を吐いた。外はもう暗い。気付いた瞬間、電気が点いた。 「…気味わりぃな」 時計を探すものの見付からない。時間さえ分からない。俺はもう一度階段を上った。何も無い廊下を通って階段を上がり、教室の並ぶ廊下を通って階段を上り、また上に上った。美術室の前を通ってから上に上る。そこには廊下があるだけで何も無い。窓からは月が見える。開かない窓から下を見たら、校庭が下の方に見えた。 「…ここ何処だよ…」 疲労が溜まるばかりだ。溜め息を吐いて歩き出す。廊下の先の階段をぼんやりと上った。その階は床が大理石で、廊下の奥に赤い椅子に座ってい十代目がいる。俺はそちらの方に走っていった。 「十代目、」 「獄寺君、」 十代目は俺を見て微笑んだ。 「ここは何処ですか、」 「Rから二つ下りたところだよ」 「屋上から…、」 「ほら、上に行ったらどう、ランボにも言われたでしょ」 十代目は上を指差した。俺は十代目に頭を下げてから階段を上る。足も疲れてきた。上った先には大きな窓がある。そこから大きな月が見えた。 「…、」 月明かりの下にいたのは山本だった。 「やまも、と、」 俺が山本の方へ足を踏み出した瞬間、山本はこちらに向かって走り出した。俺は呆気に取られる。そのまま山本は俺の横を抜けて階段を降りる。俺は急いで追い掛けた。階段を降りたら赤い椅子だけある。大理石の廊下を走ってまた下に降りた。下りて廊下を見たら、真ん中に山本がいた。俺に笑顔を向ける。 「…山本、」 「獄寺、ここ地上何階だか、分かる、」 俺は山本を見詰めた。混乱した。 ここ、何階なんだ。 ここ、何処なんだ。 山本は俺の頬を撫でてから唇を重ねた。不意に乾いた感触がして、喉が詰まる感覚に陥った。 苦しさに目を醒ました。口に紙が入っている事に気が付き、驚く。急いで口から紙を出す。くしゃくしゃの白い紙切れがあった。そこには文字が書いてある。 あの建物は地下を含めて何階建てでしょうか あの建物で最後にいた階は地上何階でしょうか 俺は文字を見た瞬間呆然とした。 あれは、夢だったのか、 それとも、 end? 090526 main |