四月一日の夜の嘘 | ナノ
四月一日の夜の嘘



カマバーで働く獄寺と女装癖のある男



綺麗にしてあっただろう化粧は涙で崩れていた。この間結婚することが出来た女装癖のある男。
俺の働いているカマバーに泣きながら転がり込んできた。暫く背中を擦っていたら、落ち着いてきたのか口を開いた。

「妻に、女装しているところを見られて……気持ち悪いって言われたんだ…」

「………普通言うだろな」

男は悲しげな表情を浮かべた。口紅は明るい赤。綺麗だった。

「…受け入れて、欲しかったんだ…あの人なら受け入れてくれると思ったんだ。…だから結婚した」

「それで傷ついたのか」

何が悪いのか誰が悪いのか、俺には分からない。善悪を俺は決められるほど偉くはない。

「………愛されたいだけなんだ。ただあの人に愛されたいだけなんだ」

「………自惚れんな」

「…え、」

自惚れている。
自惚れている。
一番自惚れた欲求。

「お前に愛される価値があんのか」

「…愛される、価値」

「俺には無い、愛される価値なんて」

窓の外は暗い。桜が月明かりに白く浮かぶ。窓を開ければ夜風。男は俯いた。寂しげに涙を零す。

「愛される価値が無いのを知っているから、愛されたいなんて思わねぇ」

「……、」

「…俺は、な」



四月一日の夜のことだった。



end





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