失くして気付いた | ナノ
失くして気付いた



山本×獄寺 二十年後 死

千秋万歳さまに提出



中学生の時、日本に来てからお前に会った。あの頃、十代目に軽々しく話すお前にとても腹が立った。そのせいで大嫌いだった。
目障りだと思う様になると、何となくお前を眼で追って気にする様になった。そのせいで、お前が俺の事が好きだという事実が薄々分かってきた。お前は気付かれている事も知らずに、何も言わないで笑っていただけだったが。

高校受験が迫ると、お前は俺と同じ高校に行こうと、勉強に力を入れる様になった。お前ならスポーツ推薦で楽に行けたのに、と皆に言われていた。俺もそう思った。でも俺は何も言わない。
結局山本の努力も実になり、十代目も一緒に三人で高校へ行ける事となった。

桜の咲く季節になって、俺は山本に告白された。嬉しかったが、照れ臭かったせいもあって渋々と承諾した。其の時のお前はとても嬉しそうで、…綺麗な笑顔だった。
高校生活も何となく穏やかに、でも確かにお前と一緒に過ぎていって…
各々で進むべき道に進んだ。

桜の咲く季節に山本に告られた。嬉しかったが、渋々承諾した。
その時のオマエは凄い嬉しそうで…綺麗な笑顔だった。
高校生活も何となく静かに、でも確実にオマエと一緒に過ぎていって…
各々で大学へと進んだ。

それから、本格的にボンゴレとして、マフィアとして任務を担う様になった。正直、お前をマフィアに入れたくはなかった。ごっこ遊びとは言えない厳しい世界だから…。
でも、お前は俺を守る、なんてほざくから…、俺は止められなかった。



大人になると、時間が経つのは早過ぎる。
瞬きをする間に過ぎていく様な、でも目を閉じればとても長かった様な気がして…

何時の間にか、俺とお前は三十四歳になって…、結婚もしないまま。二人一緒にいて…


このままずっと二人一緒にいられると思っていた…




銃声が、響いた―…

一瞬脳内が真っ白になって、何が起きたのか状況を判断出来なかった。



敵ファミリーのアジトの殲滅という任務を俺と山本は命じられた。
ダイナマイトが爆発し、爆風と鮮血が飛び散る。
人を殺していく。


最後だ…

俺は侮っていた。
敵ファミリーのボスに銃口を向けられた。其の時、脳裏に自分の死が過ぎった。


引き金が引かれて


俺には何事も無かった。…、目の前にいたのは…お前だった。俺の代わりに撃たれて床に鮮血が滴り落ちた。

「たけ、し…、」

お前は前を見たままでいた。どうか、笑顔で、傷もなく俺の方を見て欲しかった。

「隼人…守れて良かッ…た…、」

お前は今どんな表情を…、笑って…いるのか。

「何言ってんだッ…、」

目の前でどさりとお前が倒れた。目の前が真っ白になった。
お前が、倒れた…、

気付いたら敵ファミリーのボスは倒れていた。否、倒していた。俺の攻撃をまともに喰らった痕があ。

「たけし、たけし…、」

武を起こしたら、痛みに顔を歪ませ乍も笑みを浮べるお前がいた。

「はや、と…愛してる」

お前の唇に自分の唇を重ねた。微かな熱が伝わり、舌がやんわりと絡み合う。其れは血の味がして…

「…死ぬな」

「…ごめん、な」

またお前は笑っている。何も出来ない俺を責めれば良いもののッ…、

「武…、」

「…はや、と…」

微かに掠れた声で俺の名前を呼ぶとゆっくりとお前は目を閉じた。

嗚呼…、

此の唇はお前と接吻する為にあって、
此の腕はお前を抱き締める為にあって、
此の足はお前の傍に居る為にあって、
此の眼はお前を見つめる為にあって、

此の躯は全てお前の為にあって…、

なのに…、



俺は喪服を着ていた。横たわる一人の男の前に居た。
今日は其の男の葬式だ。

其れがお前の葬式だなんて、思いたくもなかった。
男は二度と目を覚まさない。
冷えて、冷えて…、唯冷えていく…。
そっと唇を重ねれば冷たさだけが伝わる。

「…たけ、し…」

呼んでも答えてくれる筈はなくて、


乾いた心の罅割れから鮮血が静かに流れているみたいだった。


俺はやっと気が付いた。

俺はお前に恋をしていたということに。



end





080611
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