山本×獄寺 雲行きが怪しくなってきた。そんな時、俺は獄寺と代り映えの無い帰路を歩いていた。むっとしていて湿気の高い今日、獄寺の機嫌は悪い。その余波を受けているのが俺だ。 さっきから黙りこくっている。 俺は彼や此れやと獄寺の機嫌を取る策を考えるが一向に思い付かない。もう少し出来の良い頭だったらと少し後悔する。いや、後悔しても遅いのだけれど。 悩んでいたら、不意に大粒の雨がぽつり、ぽつり、ざあっと降ってきた。獄寺を見たらますます眉間に皺を寄せるばかりだった。銀糸が濡れて艶やかに見える。 「獄寺、どうする、」 「…傘持ってねぇから如何しようもねぇだろ」 コンビニで買おうかとも思ったが、金が無い。俺に金が無いと言ったら獄寺も同様に金が無いから本当に如何しようも無い。 と、思ったら俺の鞄に折り畳み傘が入っている事を思い出した。 「あ、俺の鞄に傘ある」 「お前気付くの遅い」 傘を取り出して開く。獄寺に差し向けたら少し嫌な顔をされてしまった。あ、そっか。相々傘みたいで嫌なのかな。あ、でもそれなら少し酷い。だって俺等付き合っているわけだし。気恥ずかしいのかな、獄寺の場合。でも此のまま入らずに濡れて風邪を引かれても困る。 「嫌か、」 「嫌だ」 「風邪引くぜ、」 「知ってる」 「俺の事嫌いか、」 「嫌い」 胸がずきんと痛んだ。獄寺の気持ち分かっているのに訊いてしまう俺に対しての自己嫌悪、其れに素直になってくれない獄寺。 獄寺は俯いた。ぽたりと水滴が滴る。 「…ごめん…、その…、入れて、」 泣きそうな顔に困惑した顔、少し気恥ずかしさが混じった表情をしていた。 俺は獄寺の肩を抱き寄せて二人で傘に入った。 「…ありがと、」 傘に入って俯いて表情の見えない獄寺は呟く様にそう言って、それから俺に笑みを向けた。 子供みたいに我侭だけど、時々素直な獄寺にくらくらとする俺は重症だ。 「…どう致しまして。…さ、帰るか」 「おう」 夕立はまだ止みそうに無い。 二人で傘の下に居られるなら、夕立も悪く無いかもしれない。 end Bell The Cat 080614 main |