山本×獄寺 十年後 黒字師さまへ 「ごくでら、誕生日おめでとう」 「………お前大丈夫か、誕生日は三ヶ月後だぞ」 獄寺は帰宅した俺を見て本気で心配している表情を見せた。俺は袋に入っている箱を出して、獄寺に渡す。獄寺は嫌そうな顔をしながら受け取る。 「プレゼント、九月には無しって魂胆か」 獄寺の言葉に少し詰まる。それから慌てて首を横に振った。 「………いやいやいやいや。別にそういうわけじゃなくて、綺麗で獄寺に似合いそうだなあって思ってデパートで買ってきたんだよ。」 「…へえ、靴か」 獄寺は箱を開けながら呟く。靴が包まれている紙を剥がして獄寺は靴を見た。俺が買ってきた赤い靴。 「女物じゃねぇかこのバカッアホッスケコマシへちゃむくれカボチャスケベナスピーマンハゲッ」 「………ハゲてねぇよ」 俺の恋人は十年で随分と日本語を覚えた様だ。俺は最後しか聞き取れなかった。赤い靴を手にするなり俺は靴で殴られた。滅茶苦茶痛い。何か涙出そうなくらい痛い。 「俺に履けってか。いくら何でもこれは履けねぇ」 「えー」 「えーじゃねぇよ。あ、なに、これで大事なアソコ踏んで欲しかったのか。この細いヒールじゃすげえ痛いだろうな再起不能になるだろうなあ」 獄寺の嫌そうな顔が忽ち楽しげな顔に変わる。 「え、や、それほんとやめて。純粋に獄寺に似合うと思ったの」 獄寺はもう一発俺を靴で殴ってから靴を床に落とした。それで白い裸足を靴に突っ込む。 「…、」 「あ、ぴったり」 女装専門店で買ってきたから当然だ。獄寺は不思議そうに片方にも足を入れる。 「おー…入った」 「気に入った、」 「気に入ってねぇよ」 獄寺は赤い靴を眺めていた。 「…そういえば、おふくろは赤い靴を履いていなかったな」 ぽつりと獄寺が呟いた。 「…そうなのか、」 「俺が無神経にも赤い靴は履かないのかって聞いたんだ。義理の母親、ビアンキの母親は派手な人だからよく赤い靴を履いてたんだよ。そしたらさ、自分は履いちゃいけないんだって。何でかよく分からなかったよ、そん時は。…多分、義理の母親の事を少なからず考えてたのかなって。……だから俺も履けねぇ。…分かるだろ、山本」 よく分からないけど俺は頷いた。ちょっと胸が切ない。獄寺の横顔のせいだ。 「…これは履かずにしまっとく」 獄寺は赤い靴を元の箱にしまった。華やかなそれは白い箱の中に消えた。獄寺はしまいながら小さく笑った。 次の日の朝、獄寺はやる事があるからといって先に家を出た。暫くゆっくり飯食って家を出たら、ゴミ捨て場に赤い靴が出してあった。獄寺に腹が立って抗議しようとポケットに入れておいた携帯を取り出したら、レシートがセロテープで貼り付けられていた。昨日の女装専門店の。その裏に獄寺の直筆で「死ね」と書いてある。自分に非が有ると感じてポケットに携帯をしまった。赤い靴を持って部屋に戻る。いつか女装する時に役立つだろうとか馬鹿げた事を考えながら。 end 090621 main |