夜の水死体 | ナノ
夜の水死体



小説家山本と獄寺 パロ 死



夜の帳が下りた。鋭利な冷たさに外套を深く着る。石畳の橋の上で俺は、人を待っていた。待っていて欲しいと言われたから待っている。
川面に映る街灯が揺れている。俺に待っていて欲しいと言ったのは、さっぱり売れない異国の小説家の男だった。俺とは違う黒髪、気さくで明るい奴で、売れずにいるのに小説を書くのが楽しくて、一等星みたいに笑う。
丁度空気は澄んでいて、月も星も煌々していた。
相変わらず彼は来ない。懐中時計を見れば、約束した刻はとうに過ぎている。人通りはなく、水の音だけが流れる。俺だけ世界に取り残された気分だ。黒い外套と夜の闇が次第に溶け合って存在までもが闇と同化、または風化してしまいそうだ。
彼は何のつもりでおれを待たせているのか、分からなかった。
川面を眺める。自分の姿が揺れていた。不意に自分の姿が消えた。背骨が凍る。
川面の俺を消したのは、黒い影。
黒い影は正しく人の姿。
黒い髪、異国の男。
水死体。
次の瞬間、俺は川に飛び込んだ。水中は恐ろしく冷たい。
感覚を失くす。
水死体を抱く。
街灯が消えた。



end





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