声が聞きたい | ナノ
声が聞きたい



雲雀×獄寺



長期の休暇が始まった。
僕にとって一年で一番退屈な日々。
応接室には一人と一羽。
校庭には暑苦しい野球部にサッカー部の声。
草壁にも取り敢えず休暇を取らせたから、本当に暇だった。
暑さと蝉の声に苛々して本すらまともに読めない。そんな時にふと脳裏を過ぎったのが銀髪の少年の顔だった。
草食動物と群れている一人だが、僕の中では何か違う存在だった。
携帯のディスプレイにはつまらない壁紙だけ。
君から電話だってメールだって来る筈も無く。
でも待ってしまう僕は愚か極まりない。君に会いたいなんて贅沢な事は言わない。

せめて、声だけでも聞けたら…。



夏はまだ続く。
苛々を募らせて群れを毎日潰すのが習慣になった。
群れている奴等は暇人が多いから相手になって好都合だ。
但し、弱い、けれど。
そんなある日、街中をだるそうに歩く銀髪の少年が視界に入った。
僕は彼を無理矢理暗い路地へと引き寄せた。

「ひ、雲雀…、何だよ、」

怪訝そうな目で僕を見ている。聞きたいと思い続けた声がやっと聞けた。

「携帯の番号教えなよ、」

「何で、てめぇにッ、」

此の子は何も知らない。僕の気持ちなんて欠片も分かっていない。

「死にたいの、」

トンファーを白い首筋に押し付けてみる。
彼は不満そうにしつつも番号を僕に教えた。これでいつでも彼の声が聞ける。
トンファーから解放する前にそっと接吻をしたら、彼は呆然として次の瞬間真っ赤になった。

「どういう事か、分かったでしょ。じゃあ、またね。…電話するから」

暗い路地に彼を残して僕は立ち去った。長くて退屈な休暇はもうすぐ終りそうだ。



end





世界から君が消えた日
120408
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