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山本×獄寺

きりさきさまへ



沢山の人間で溢れ返っている暑い夜の神社。今夜は夏祭りだ。

俺と十代目、山本と笹川で此処に来た。
こうして夏祭りに来るのも十代目と知り合った為で一人では決して来なかっただろうと思った。

目で追うばかりだけれど、興味を引くものばかりある。金魚すくいに真っ赤な林檎飴、安っぽいものを売る出店…。

でもやっぱり人が多くて苛々する。幾度か十代目を見失い掛けた。必死に十代目を目で追っていると後ろから腕を捕まれた。
振り返ると、…山本がいた。いつもとは何処か違う真剣な眼差しを此方に向けている。
一瞬時間が止まった様な感覚。でもすぐに動き出す。

「何だよ、十代目を見失ったら…」

「獄寺、少し時間くれねぇか、」

俺は十代目の行った先を振り向いたら、其処にはもう他人ばかりだった。

「…てめぇのせいで…見失っただろ…。…ったく…仕方ねぇな」

溜め息を吐いて山本の傍に来る。

「ラムネ、奢るから勘弁してくれよ」

そういえば、俺はラムネを飲んだ事がない。歪な硝子瓶に入った炭酸飲料。

山本に連れられてラムネを買いに行く。店の親父が瓶を開けてくれた。
ぽん、と音がしてじゅわ、と白い泡が吹き出て、だらだらと瓶を伝う。それを白いタオルで拭き取った。
渡されたラムネの瓶にはビー玉が入っていて、小さな気泡を纏っていた。

人混みを避けたベンチに二人腰掛けた。
俺はラムネを口にする。案外飲みにくい。ビー玉がつっかえてちびちびとしか飲めない。変な飲み物。
口にするとぱちぱちと口の中で切なく溶ける。

「ごくでら、何で連れてきたか、分かるか、」

「知らねぇ。知るわけねぇだろ」

山本が微かに傷ついた表情をする。こいつはこの硝子玉に似ている。落としたら、その側面から小さな皹が入っていく。

「…獄寺が、好きなんだ。…どうしようもないくらい」

訴える様な告白。心臓に炭酸を注ぎ込まれた様に慌てて脈を打つ。
指先までその血が流れてきたのか、指先が痺れる。

「ごくでらは、」

ベンチから立ち上がる。ラムネの瓶に付いた水滴が指の間を伝う。ぽたりと水滴は落ちて、地面に滲み込む。

「…好きだぜ」

答えは花火の音と同時に零れて、もしかしたら掻き消されてしまったかもしれない。


次の花火の音が聞こえた時、俺は彼の腕の中にいた。



end





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