山本×獄寺 時雨椿さまへ 携帯のバイブレーションが響いた。 もう夜中の12時を過ぎた頃だった。俺は眠れずにぼんやりとテレビを見ていた。真剣に見ているわけぢゃなくて、ただ受け流す様に見ていた。 携帯を見ると、山本からのメールが着ていた。 『デートしよ、』 内容は無くて、タイトルに用件が書いてあった。俺はメールを返すのが面倒なので電話を掛けた。すると、メールを送ってきた本人がすぐに出てきた。 「あ、ごくでら」 夜中でも昼でも能天気な声。その声が嫌いというわけではないが、少し調子が狂う。 「デートっていつ、」 「今」 「今、」 「そう、今」 こんな用件を女に言ったら絶対フラれそう。唐突で、気紛れで。でも実直で、よく分からない。 「今、どこにいんの、」 「獄寺ん家のマンションの前」 溜息を吐いて俺は電話を切った。ラフな格好をしていたので、外に出られる格好に着替える。いつも付けるお気に入りの香水も軽く付けた。山本を待たせているが、突然来たのはあっちなので、用意に多少掛かっても文句を言われる筋合いは無い。 外に出ると山本がいた。深夜の街はとても静かで、落ち着いていた。たまに勢いよくバイクが走り去っていく。 「ごめんな、遅くに」 「ほんとだよ。…んで、何処に行くんだ、」 「すぐ近くの公園」 「…そうかよ」 昼間と同じ道を歩いているのに、今は別の道を歩いている様な変な不安が纏わりつく。 山本とそっと手を絡ませる。手を繋げるのも、きっと夜だけ。 「月が綺麗だな」 山本が立ち止まって空を仰いだ。大きくて丸い月が夜の街を照らしている。今日はとても明るい夜だ。 「…お、落っこちてきそうだな」 小さな驚きと微かな恐怖に染まる呟き。大きく明るい月は今にも転がり落ちてしまいそうだった。 「月がさ、降ってきたら、どうする、」 ふと、彼に尋ねた。綺麗な横顔が視界を埋める。彼はゆっくりと俺を見た。小さく笑って、こう答えた。 「獄寺を抱き締める。…だって月が降ってきたら生きてらんねぇだろ。…だから、獄寺と少しでも近くにいたいから」 なんだ、こいつも俺と同じ事を考えていた。 俺は山本の手を引っ張る。山本は少し驚いた表情を浮べた。そこにキスをする。 「ごく、でら、」 「キスしよ。月が落ちてくる時は」 「…どう、して、」 理由なんてそんなのお前の言っている事と同じだから言わない。言わなくても、きっと分かってる。 月が降ってこなくても、抱き締めていたい。キスしたい。 なあ、お前もそう、思ってるだろ? end 120408 main |