店員山本と客獄寺 カフェパロ 俺はカフェでバイトを始めた。並盛商店街に新しく出来た所で、外装も内装も洒落ていてとても気に入ったからすぐにバイトに応募をした。このカフェには様々な客が訪れる。商店街で買い物をしてきた主婦、カップル、学校帰りの女子高生等様々だ。 ある日、不思議な客が来た。外は雪が静かに降っている昼下がり。背の高い銀髪の男性だった。何人かは分からないけれど外国人で、でも流暢な日本語でホットコーヒーを二つ頼んだ。後から連れが来るのだろうと思って、俺は二つのカップにコーヒーを淹れた。彼は店の端のテーブルにコーヒーを自分の方に一つ、向かいに一つ置いて椅子に腰掛けた。彼は眼鏡を掛けて、本を読み始めた。時々コーヒーを口にする。静かな時間が流れていく。連れは一向に来る気配が無い。もしかしたら来ないのかもしれない。あるいは自分で二杯飲むのかもしれない。 暫くして彼は本を読むのを止めて、栞を挟んだ。空のコップと飲まれなかった冷めたコーヒーを持って返却口に置いた。返却口の向こうにいた俺に微笑んで、ご馳走さまと言って店から出ていった。残されたコーヒーを俺は流しに流した。 彼は次の日も同じような時刻に一人で来てコーヒーを二つ頼んだ。そして一つ残した。俺は残されたコーヒーを流しに流す。 そして次の日も同じような時刻に一人で来てコーヒーを二つ頼んだ。そして一つ残した。俺は残されたコーヒーを一口飲んでみた。苦い。俺は残したコーヒーを流しに流す。 その次の日、店はいつも通り客が入っていた。でも彼は来なかった。 誰とも知らないのに毎日待つ俺がいる。彼はいない。 失恋に似ていた。 片思いに似ていた。 コーヒーに似ていた。 まだ俺はカフェにいた。 end 100214 main |