山本×獄寺 珍しく二人で風呂に入った。 まあ、一緒に入っても躯に触れさせてはもらえないのだけれど。でも、浴槽は二人で入ると狭いから自然と肌が触れ合う。 湯の温度と体温は心地好く、髄まで満たされた気分になる。 「獄寺、風呂好きか、」 あまり長風呂をしない獄寺にそう尋ねた。 獄寺は手で蛙を作りながら答えた。最近獄寺は手遊びが好きらしい。白い指を交差させていく。 「ああ。好きだぜ」 珍しくストレートにきた。 「じゃあ俺の事好き、」 其れにはやっぱり答えない。顔が赤らんでいる。それは湯のせいか、言葉のせいか。 浴槽に浸かっている獄寺は口数が少ない。何か訊けば答えてくれたり、答えてくれなかったり。 「なあ、獄寺、」 答える代わりにあまり威力の無い水鉄砲をふっかけてきた。 「キスしてぇ」 唐突な言葉に獄寺の瞳が揺らいだ。その瞳を隠す様にそっぽを向く。 「嫌だ」 神様、俺の言葉の80%を否定する此の子を少し素直にしてやって下さい。 「セックスしてぇな、駄目、」 「駄目」 あーあ。今日も俺は誘いに失敗。強引にすればそれで獄寺は呑み込まれていくけれども、やっぱり合意のうえで…と思うが合意してくれる日がいつ来る事やら。 「先に出るから」 ざばっとお湯が揺らいで獄寺は隣からいなくなった。 脱衣所に行って着替える獄寺のシルエットだけが映っている。 それをぼんやりと眺めていたら、何時の間にか眠りに落ちていた。 俺はまだ浴槽にいた。 いい加減皮膚がふやけてしまいそうだった。 隣には誰も、何もいないと思ったら違った。隣に小さな熱帯魚がいた。 グラミーの様な…そんな魚。その魚の眼は珍しく綺麗な翡翠。 きらきらとする鱗に綺麗な目でゆらゆらと泳ぐその魚を眺めていた。 ふとこの水温で生きられるのか疑問に思った。少し温いけど魚にとっては…。 熱帯魚の適正水温は26℃と聞いた事があった。 でもどうしたものか俺の体は動かない。唯其の魚を只管眺めていた。翡翠の眼をしているなんて奇妙だと次第に思うようになってきた。 若しかして、此れ獄寺かな、なんて思った。もし此の魚が獄寺ならば、凄く大切に、大切にする。いや、普通の獄寺でも大切にしてんだけど。 少ししてから俺はぼんやりしてきた。遠くで獄寺の声が聞こえる気がする。 「おい、何風呂で寝てんだよッ、心配したじゃねぇかッ、」 俺、寝ていたのか。夢を見ていて…、 「良かった、獄寺が熱帯魚になってなくて」 「は、」 俺は獄寺を抱き締めた。 やっぱりこうして抱き締める事が出来て、キスも出来る今の獄寺が一番だと思った。 end 38℃の浴槽 120408 main |