ブラックティー | ナノ
ブラックティー



山本×獄寺 十年後



任務遂行日前夜は必ず隼人を抱く。隼人も求めてくるので、躊躇なく、でも程ほどに。
今日は、隼人の部屋で過ごす事にした。隼人の部屋は整然としている。白と黒と赤の部屋。その部屋で一番目を引くのはブラックティーだ。隼人はこの薔薇が一番好きだと言う。俺は何が好きなんだろう。向日葵かな。花に関してよく知らない。

「…隼人、」

情事の後、二人ベッドに寝転んでいる。甘くて気だるい時間。隼人とセックスしている時も好きだけど、こうしている時も好きだ。隼人といられるなら、どんな時間も好きなのかもしれないけど。

「…ん、」

「幸せだな」

俺は思ったまま言った。あんま詩人みたいに上手い事は言えないから、ストレートに言ってみる。隼人も嬉しそうに微笑んだ。この笑顔が俺は凄く好きだ。幸せが形になった様な感じで。それに、自分にだけ向けてくれる笑みな気がして。

「なぁ、隼人、ピアノ引いて、」

「…ったく…仕方ねぇな」

隼人はベッドから下りて脱ぎっぱなしだったスーツの下を履いた。グランドピアノの前に座り、ぽろんぽろんと少し音を出してからピアノを弾き出す。細くて白い指が鍵盤の上を流れていく。繊細でゆったりとした旋律。綺麗だなあ、と単純にそう思った。やっぱり上手いことは言えない。俺は隼人を背中から抱き締めた。すべすべとしていて心地良かった。

「隼人はピアノが上手いのな」

「ったりめぇだろ」

「まあそうなんだけど。…そういや隼人の部屋はピアノみたいだな」

「…何でだよ、」

「黒と白と赤で」

ピアノに掛けられたカバーは黒と赤で、それに黒と白の鍵盤。改めてそれを見て隼人は小さく笑った。

「そうだな」

「…明日は任務だな」

「…ああ」

隼人の目が微かに曇った。隼人は任務が好きじゃない。ツナの為だと意気込んでいるけれど、本当は血に染まる自分が嫌で仕方ない様だった。少しの間、沈黙が続く。不意に隼人が口を開いた。

「…もし…俺が死んだら…」

「何言ってんだよ、隼人」

「もし俺が死んだら、棺桶にブラックティーを入れてくれ」

隼人は笑顔を浮かべてそう言った。花瓶に挿されたブラックティーを一輪抜きさり、愛しそうに見詰めた。贅沢だなあと一瞬思ったけど、俺は頷いた。

「…勿論隼人の好きな花添えてやるけどさ、…死ぬなよ、」

「わーってるけど。…武は遺言ねぇのか、」

「遺言…、…んー…死ぬ間際になんねぇと分からねぇな」

隼人はつまらなそうな表情を浮かべた。悪戯する目的を無くした子供みたいに。俺は死んだら向日葵でも入れて貰おうかな、なんて思ったけど、隼人にげんなりされてしまいそうだ。

「…明日も生きて帰ろうな」

「……あぁ」

隼人と少しの間見つめ合って、最後にキスをした。ゆっくりと、味わう、甘さ。名残惜しそうに唇を離した。

「ん…、寝るぞ」

「はいはい」

二人でベッドに潜って、もう一度軽くキスをする。

隼人とキスをするのも、隼人のピアノを聴くのも、もしかしたら今晩で最後かもしれない。
でも今は、隼人といられる幸せを噛み締めようと思った。



end





090227
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