獄寺→京子 そろそろ夕陽の射し込みそうな教室で、俺はぼんやりしていた。今日は十代目が風邪をおひきになり欠席されていた。なので俺はやる事を失った。つまらない。お見舞いなら俺じゃなくて笹川辺りが行くだろうから俺は邪魔だろう、と思い込んでいた。野球部の練習する声が聴こえる。そんな時に教室の扉が開いた。 「あれ、獄寺君。まだいたんだ」 「いちゃわりぃかよ」 「ううん。悪くないよ」 笹川は首を横に振ってから鞄を取り、帰る仕度をしている。何となく眺めていた。髪が射し込み始めた夕陽にきらきらしている。睫が瞬きの度に揺れる。 「これからツナ君のお見舞いに行こうと思うの。獄寺君も一緒に行かない、」 「…俺は邪魔だろ」 「何で、」 「何でって…」 笹川への返答に困る。十代目の気持ちに気付いてないというのか。 「一緒の方がツナ君も喜ぶよ、」 結局断る事が出来ずに二人で橙色の道を歩いていた。楽しそうに話す笹川を横目で見る。素直に可愛い、とか思った自分に首を横に振る。気付きそうな気持ちを押し込めた。 「ツナ君大丈夫かな、」 「…え、ああ…心配だな」 心配そうな表情をする笹川。俺に分は無さそうだ。息が苦しい。行き場の無い思いに戸惑う。 「…獄寺君、」 「ん、」 「大丈夫、」 「…何が」 「悩んでいるみたい。眉間に皺寄ってる」 俺の前に立つと眉間に触れる細い指。心臓が跳ねる。思わず赤面した。俺をも心配そうに見詰める。悩ませているのはお前なんだと言ってやりたい。言えない。そんなこと。 「…誰が」 「…え、」 「……こんな」 誰が、 誰が、こんな気持ちを、 作り出したというのか。 喉に思いの塊が詰まった。言葉が出ない。駄目だ。好きなんだとか言っちゃいけない。これから十代目のお見舞いに行き、俺は適当な時に家に帰る。それが、俺の、正しい道。漢の道だ。 「…獄寺君、」 「誰がこんな夕陽作ったんだちくしょーっ」 「え、」 夕陽が目に染みる。ちょっと泣きたい。泣かない。俺は漢だ。 「ふふっ、獄寺君面白いっ。誰が作ったんだろうね、」 笹川が可笑しそうに笑う。 早く十代目にこいつの笑顔を見せて元気になっていただこう。笹川の手を掴んで走り出した。夕陽に向かって、じゃなく十代目の家に向かって。 「獄寺君、」 「なんだよ、」 「楽しいね」 ちょっと振り返って笹川の顔を見たけど視界がぼやけて見えない。ちくしょう、残念だ。夕陽も見てないところで好きって言いたかった。悩んで悩んだ一言は失敗。何かもう前が見えない。漢なのに涙出そう。 今だけこの手を握る事を許して下さい。 誰に言うでもなく呟いた。 end 090304 main |