レタスとトマト | ナノ
レタスとトマト



山本と獄寺



目が覚めたら、俺は檻の中にいた。檻はどうやら部屋の真ん中にあるらしい。コンクリートが打ちっぱなしの狭い部屋だ。天井も高くはない。檻は錆びていて古めかしく、蹴り飛ばしたら壊れそうだ。でも俺はそれをしようと思わない。床にはレタスが転がっている。食べろということだろうか。俺はしゃがみ込んでレタスを千切って口に入れた。めりしゃりへにゃりとなる。レタスの味だ。葉の味。溜め息を吐いてレタスを見た。緑。この部屋には窓が一つとドアが一つある。窓の外は曇っている。ドアは動く様子がない。ドアの向こうには何があるんだろう。俺は目をつぶる。ドアの開く音がした。ドアの閉まる音がした。目を開けたら、そこには銀髪の男がいる。トマトを食べていて、その薄赤い汁が着ている白いシャツを汚す。緑の目が俺を映した。彼は綺麗だ。口許から零れるものも透明な細い糸みたい。俺は彼の様にレタスを食べてみた。レタスは美味しい。美味しいからといって笑顔になるでもない。俺と彼との共通点を一つ見つけた。笑えないことだ。顔の筋肉がまるで働かない。きっと彼もそうだ。でも笑う必要性が無い。楽しくないし、面白くもない。ここで俺は初めて考えた。何でここにいるんだろう。ここはどこなんだろう。



end





090117
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