山本×獄寺 俺も山本も余る程チョコレートを貰ったバレンタインデー。そもそも余る程というか、全部いらない。持って帰るのにも一苦労だし。俺はこの日、十代目と帰る。山本は部活だ。 「獄寺君、今年もいっぱい貰ったね」 「少し困りますけどね。…十代目、俺からのチョコ受け取っていただけますか、」 「え、」 俺は十代目の分のチョコレートをしっかり用意しておいた。別に女が男がどうのというより、ただ渡したいから渡す。 「はい、どうぞ」 「あ、有難う」 十代目が嬉しそうに笑う。不思議と幸せな気分になった。 「今日ね、京子ちゃんにも貰ったんだ。…その…義理だとは思うけどさ」 「良かったじゃないっスか。笹川、見た限りでは女子と十代目にしか渡していませんよ、」 「ほ、ほんと、」 また嬉しそうに笑う十代目。俺も嬉しくなる。日本のバレンタインデーはチョコレートを売りたい企業に踊らされているイベントではあるが、最近悪くないとも思った。 十代目を送り、俺は帰宅する。静かな部屋に少し物足りなさを感じるようになったのは、やっぱり山本のせいだ。そんな山本の為に俺はケーキを作ってみた。形こそ歪であれ味は大丈夫だった、と思う。俺は山本の帰りを待つ事にした。 「ただいま、獄寺」 山本が俺と同じくらいチョコを持って帰ってきた。チョコを置くと迎えに出た俺を抱き締めてキスをする。 「ん…、全部受け取ってきたんだな」 「獄寺こそ」 山本の乾いて冷たい手が髪を撫でた。俺はリビングに山本を連れていく。喜んで貰えるかは分からないけど、ケーキを出した。やっぱり形がおかしい。心なしか丸まった瓜みたいな形の様な…違うような…。 「これ隼人が作ったの、」 「…まあ…」 「さんきゅーな」 取り敢えず山本は嬉しそうだ。しかし山本が食べてからどうなるかは分からない。倒れたらどうしよう。救急車を呼ばなきゃいけない。でも倒れた理由が言えない。ならば自分で精一杯看病しなくちゃならない。それも面倒だ。そうして考えているうちに山本はケーキを食べる。別に異常は無さそうだ。いつも通りまぐまぐ食べている。 「ん、美味いな」 ほっと胸をなで下ろした。山本は二口目を食べる。その時だった。山本の表情に違和感を感じたのは。噛みながら困った様な表情を浮かべる。そして小さく苦笑してまだ噛み続けて首を傾げた。愈々俺も心配になる。 「…ティッシュかして」 山本が口を押さえて言う。俺は慌ててティッシュを渡す。 「な、何か入ってたか、」 ティッシュに何かを出してくるんでゴミ箱に捨てた山本は苦笑する。 「紙がさ、入っててさ。んでも獄寺が折角作ってくれたんだから…紙も食えるかなと頑張ってみたけど…駄目だった」 山本の発言に目を丸くする俺。そういえば、昨晩作っている時に苛々してレシピを破ってしまったんだったか…。 「……極端に無念だ…」 泣きたくなった。山本の為に頑張ったのに上手くいかないし、変な気を遣わせてしまった。 「気にすんなって。美味しいから大丈夫だぜ、」 「………んだけど…」 「後で獄寺も食わせてもらうからいいの」 「………」 山本は幸せそうにケーキを食べていた。俺は女子に貰ったケーキを食べてみる。無駄に美味い。ちくしょう。 「はい、獄寺にも」 山本がケーキを俺の口元に持ってくる。折角だから食べてみた。 「………まずっ…」 来年までには何とかしたい。 end 090210 main |