梔が笑うなんて滑稽な | ナノ
梔が笑うなんて滑稽な



ルッスーリア×獄寺



カマバーで働き始めてどのくらいになったか忘れたけど、かなり手慣れてきた。働き始めは不器用さが際立って、あら不思議という感じで一枚の皿が凄い音立てて分裂していた。今は慣れてバーで一番人気になるまでとなった。かなりの進歩だ。猿人が新人になるくらいの。俺は赤いルージュにし、青いワンピースを着て、いつも通りのプラチナみたいな鬘を被って出勤。その日は、もう既に客がいた。見覚えがあると思ったらルッスーリアだ。俺の方を振り返るなり嬉しそうに笑った。悪趣味な事に緑色をした唇。それで投げキッス。慣れてきた俺でも少し鳥肌が立った。

「あら、隼人、ここで働いてるなんて知らなかったわ」

「…うるせぇな。仕事の邪魔すんなよ」

「分かってるわよ。オーナーと話したくてきたんだから」

俺は眉を寄せた。どうしようもない状況に溜め息を吐く。ルッスーリアとオーナーは楽しげに話し始めた。俺は二度目の溜め息を吐いたが、すぐに客が入ってきたので溜め息を引っ込めた



最後の客が出ていったのを見届けて、カウンターに腰掛けた。ルッスーリアの視線もあっていつもより疲れた。

「…お疲れ様、隼人」

「……誰のせいだ」

「何の事かしら」

ルッスーリアは緑色の唇が三日月みたいになる。カウンター越しのガラス戸に映る自分は赤い唇が目立っていて歪んでみえた。酷く疲れている様な。

「隼人がせっせと働く姿、素敵だったわよ。私どきどきしちゃった」

「そりゃどうも」

ルッスーリアの緑色の爪をした指が顎を撫でる。そっと顎を持ち上げられた。瞼を閉じるかわりに目線を下に落とす。そしたら唇が重なる。舌も絡めてぐちゃぐちゃと。唇が離された時、ガラス戸に映る自分の唇は赤と緑が混じって殆んど黒。

「んっ、汚いわねぇ」

「お前もな」

唇の色か、
自分自身か、
または両方

ルッスーリアから顔を背けて窓の外に目を向けたら真っ白な梔が青白く見えた。窓の隙間から仄かに香りがする。

「ね、ホテル行きましょうよ」

「ここはゲイバーじゃねぇぞ」

「良いでしょ、ね」

俺は何となく頷いた。多分疲れていたんだ。窓越しの疲れた顔した梔が笑った様に思えた。梔が笑うなんて、そんな滑稽な話ってあるだろうか。



end





090620
main