八月十五日 | ナノ
八月十五日



山本×獄寺 死

戦争パロ



一九四五年八月十五日、ラジオ越しに聞こえた天皇陛下の声、届いた死亡告知書に骨箱。何もかもに呆然とした。

武はちょうど二十回目の誕生日を迎えた後だった。町の男子十数人と共に徴兵されていった。別れる時に武は、笑顔を向けてからこっそり接吻を交わした。勇ましく行く背中を見送って、心の中で必ず帰って来いと呟いた。本当は行って欲しくなんかなかった。本当は、戦争なんて嫌だ。何が戦争万歳だ。何であいつが行かなくちゃならないのか、どうしても分からなかった。俺は、見えなくなるまで見送った。

俺は独りだった。外人との子供だった為銀髪でよく目立ち、幼い頃は通りすがりに石を投げられたり理由もなく殴られたりした。母親はその頃死んだ。外人である父親はどこかへ逃げた。そんな時に武に出会ったんだ。毎日どん底な生活を繰り返して限界がきて倒れた時、武が俺を家に連れて帰り何とか助かった。武の親父に事情を話せば家に置いてやると言ってくれ、そうして暮らして武と共に過ごした。いつの間にかお互いに惹かれて、男同士じゃおかしいかもしれないが恋に落ちた。不毛な恋とは分かっていたけれど。

俺もそもそも徴兵される筈だったが、生まれながらに病弱で軟弱だった為、身体検査に引っ掛かり、徴兵は免れた。武は逆で、健康そのもの。体格も良い。すぐに抜擢された。御国の為と喜ぶ武を見て無性に悲しくなった。

出発をする前夜、二人きりで話した。必ず帰ってくると約束した。そんな約束はいらないから行かないで欲しかった。行かないでなんて、言える筈もなく。

骨になって帰って来るなんて約束はしていない。お前の笑顔がまた見たかった。あの日触れた乾いた唇の感触が懐かしい。虚しい。疎開先で武の親父と弔う事にした。

俺は骨箱をひっそりと一人で開けてみた。そこには、石と砂が入っていた。呆気に取られた。武が本当にいたのかすら分からなくなった。確かにいた。俺の前に。確かに約束を交わした。…なのに。



何を恨んで良いのか分からずにいた。あいつが居らずとも時間は流れる。

時は流れて平和な時代がやってきた。

それでも未だあの日を忘れられずにいた。



end





090817
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