罪を共に飲す | ナノ
罪を共に飲す



獄寺×先天的女体化六道 十年後



牢の見張りを頼まれた。泥棒猫を見張っていろとリボーンさんに言われ、俺は薄暗い牢獄にいる。

「隼人君が見張りですか」

「俺が見張りじゃ悪いか」

「頼りないですね」

「…大人しくしてろよ」

泥棒猫とは六道骸のこと。彼女は実力のある守護者だが、度々問題を起こす。
今回は他勢力から契約の証として貰った金の林檎を盗んだ上、食べたそうだ。

「隼人君」

「何だよ」

「紅茶を飲みたいです」

「うるせぇな」

十代目が何とかして事は収めたものの、事の発端の骸は一か月牢に入れられることとなった。見張り役として俺が回された。理由はいまいち分からない。

「紅茶かチョコレート下さい」

「………」

ポケットに入っていた溶け掛けのチョコレートを鉄格子の向こうに投げる。牢に入れられているくせに深い緑のドレスを着た彼女は、チョコレートを嬉しそうに受け取り、包み紙を剥がして食べる。

「クフフ、なかなか美味しいですね」

「どっかの女に貰った」

「やっぱり美味しくなかったです。何ですか、この亀虫は。口の中が最悪です、早く紅茶飲ませて下さい」

彼女はやたら他の女に嫉妬するし、我儘でつんけんしているし厄介だ。俺は溜め息を吐きつつ紅茶を入れに自室に戻った。チョコレートをまた少しポケットに入れてカップを手に牢に戻る。骸は退屈そうにしていた。

「遅いです」

「文句言うな」

紅茶を渡せば嬉しそうに笑って紅茶を飲む。その姿が美しく映った。

「隼人君、ポケットの中に何が入っているんです、」

ぼんやりと彼女を眺めていると、ふと彼女はこちらを見た。ポケットの中には確かチョコレートを入れてきた筈だ。

「ああ…、これは」

ポケットに手を入れる。そこにはチョコレートがある、筈だった。感触が違う。艶々していて。
骸は笑う。彼女の手にはチョコレートが。紙袋を丁寧に剥がして食べる。
ポケットに入っているものを出した。

「……金の、林檎」

唾を飲み込んだ。半分に割れた金の林檎が俺の手の中にある。俺の手にあることが分かればただじゃ済まされない。

「クフフ」

「…何のつもりだ」

「紅茶とチョコレートのお礼、ですかね」

「ふざけんな」

「…わざわざ半分残しておいたんですよ」

「何言って…」

骸の目を見て何も言えなくなった。射抜くような強い視線があった。俺の手には林檎の重みがある。

「食べて下さい」

林檎を見る。林檎は誘惑そのものだった。昔から人間は金に誘惑されてきた。浅ましくも思えた。

「食べて下さい」

唇を結ぶ力が解けてくる。食べてはいけない。食べたら、共犯同然だ。

「食べて下さい」

気付けば金の林檎を齧っていた。気付けば金の林檎を飲み込んでいた。
今俺は何を飲み込んだ。
今俺は何になり下がった。

「共犯ですね」





俺を奥から蝕んでいくのは、



end





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