綱吉←雲雀 雲雀さんは俺を応接室に呼び出す度に体を求めた。その呼び出しに初めて応じた時、俺は彼の要求を断れば良かったものの、流されたままだ。そもそも断れなかった。その理由は力の問題とかそんなんじゃなくて、もっと違うもの。雲雀さんの目だ。その目は何処までも深い黒で、引き込まれそうな闇が広がっていて俺に有無を言わせない。そうして嫌だとか良いとか聴かれる前にそうした歪な関係が始まったのだ。 雲雀さんは俺の事を好きだとか愛しているだとか言う。俺はその感情を知っている。どれだけ苦しいかも知っている。それでも、俺は雲雀さんに対して好きとか愛しているとかそんな感情を微塵も抱いていない。じゃあ彼の事をどう思っているのかと言うと、欲望に忠実で愚かな男だと思うんだ。それ故彼を突き放せない。矛盾している。 「ねえ、沢田…、愛してるって、言ってよ」 雲雀さんに後ろから抱き留められる。その力は強くて熱い。耳殻を舐める様に厭らしく囁く。俺は死んでもこの言葉に答えてやろうなんて思わない。俺は彼に望んでいるものは心とか言葉じゃなくて、快楽だった。雲雀さんを利用している自分にいい加減嫌気が差してくる。俺に幻滅して何処か違うところにいけばいいのにと何度も心の中で呟く。 「…っん…、」 「…さわだ…、僕の事そんなに嫌い、」 何も言えない。 好きでもない。 愛してもいない。 嫌いでもない。 憎んでもいない。 何でもない。 それから雲雀さんは口を閉じ、俺をソファーに押し倒すといつも以上に激しく、壊れるまで抱いた。俺の中に白濁を吐き出すとそれからまためっきり何も言わないかと思ったら、不意に立ち上がって俺をソファーに置き去りにして、次に来た時に雲雀さんは手に銀色のものを持っていた。手錠。俺を逃がしたく、ないのかな。 「ここにいて、ずっと。死ぬまで。僕を愛してるって言うまで」 雲雀さんの手から手錠が零れ落ちる。雲雀さんもそこに崩れて座り込む。壊れちゃっているに違いない。震える手で俺の手首に手錠を掛けて、それに鎖を繋いだ。 俺は死んでも「愛してる」なんて言わない。 心は一つしかない。 だから、雲雀さん、貴方にはあげられないんだ。 俺には、死ぬほど愛している人がいるから。 この心を全て捧げても良いと思っている人がいるから。 だから、だから、どうしたってあげないよ。 end 091103 main |