山本×獄寺 十年後 もう午後十一時を回り、辺りはすっかり夜の帷に包まれていた。高校時代の友人等が誕生日を祝ってくれ、ふわふわとした気分のまま友人と別れた。多分結構酔ってる。ふらりとして静かな細い路地にぺたりと座り込んでしまった。ひんやりと冷たいコンクリート。都会独特の冷たさ。夜空を見上げたら氷みたいに綺麗な月。と、微かに星。春なのに夜は冷たい。 「何やってんだ、こんなとこで」 銀髪が揺れた。獄寺、だ。明るい翠色が今は夜の色に染まって深い翠色。細い路地の入り口にすらりと細い足で立っている。 「んー…夜空を楽しんでたとこかな」 「…ただ酔っ払っただけだろ。酒くせぇ」 つかつかと歩いてくる。静寂を破る足音。 「ごくでらー…、今日何の日か知ってる、」 「んー何だったかな」 隣に腰を下ろした獄寺を見たら、いつもみたいにちょっと意地悪そう。白くて指輪だらけの指に触れてみる。冷たい。 「そういや、俺が愛して止まない奴の誕生日だったかな」 自嘲気味に笑う。 「誰、」 自惚れそうだ。 獄寺は立ち上がった。片手に何か持っている。俺の正面に来たと思えば、持っていたものを押し付けられた。真っ赤な薔薇。不意に唇に温かな感触。キス、された。驚いて俺は唇を離した獄寺を見た。白い首筋が目に入る。唾を飲み込んだ。 「Buon compleanno」 獄寺の薄い唇が動く。 「…Buon compleanno、」 誕生日、おめでとう。 イタリア語はマフィアとなるまでに簡単なものと業界用語は覚えていた。だから獄寺の言葉も理解出来た。獄寺はくるりと俺に背を向けて歩き出す。 「ごくでら、」 細い路地から姿を消した。まだ微かに匂いだけ此処に、まだ真っ赤な薔薇が此処に。 「自惚れて、いいのかな」 ぼんやりと赤い薔薇を見詰めていたら視界が揺れた。睡魔が襲ってきた。俺はそのまま目を閉じる。多分、立てないから。 午前五時、朝日が射し込み始めていた。俺は薄明かるい細い路地で眠っていた。獄寺を思い出す。夢かもしれないなんて考えた。ふと足元を見たら、真っ赤な薔薇。夢じゃ、なかった。 鼓動が高鳴る 微かに痺れる 指先に刺さる 真っ赤な薔薇 赤に溺れそう end 090407 main |