山本×獄寺 すっかり手放してしまったのかもしれない。 山本と別れてもう随分経った。といっても2年くらい前。大体2年前ということは覚えているけれど、正確な日は覚えていない。春だったような気がする。 別れたからといって関係が途切れて会わなくなったわけではない。十代目と山本と三人で遊びに行ったり、時々二人で会ってどうでもいいことを話したりもする。こうしていると、付き合っていた頃、好きだとか愛しているだとかそんな言葉を口にしていたことが不思議に思えてくる。今となってはそんなことを言う相手ではなくなった。 人間っていうのは都合が良い。機械ではないから、全てのことをしっかり記憶しない。記憶していたことも忘れたり、改変したりする。 別れた時は、どうしようもなく辛くて山本と顔を合わせるたびに胸が締め付けられるように痛かった。今ではそんなこともあったなと思い出して、少し胸の痛みを感じるだけだ。辛かったことも忘れていく。山本に執着していたことも忘れていく。 付き合っていた時、一緒に過ごしたことは確かに幸せだった筈だ。一緒に飯を食ったり、寝たり、馬鹿なことして遊んだり、些細なことが幸せだった筈だ。 そんな些細な幸せも、嬉しかったことも、今では本当に嬉しかったかどうか、その感情がもうよく思い出せない。 忘れてしまった。 お互いの関係と出来事だけ覚えていて、感情の機微なんてものはすっかり忘れてしまった。 思い出そうとしても、その時は戻ってこなければ、手放した記憶も戻ってこない。 寂しいものだ。忘れてしまうのは寂しいものだ。 忘れないと前を向いて歩けない。 忘れていくからまた歩き出せる。 わかっているけれど。 end 140719 main |