山本と獄寺 10年後 突然胸倉を掴まれて顔を殴られた。理不尽過ぎる。獄寺が何故か殺気立っていた。 「俺なんかわりぃことしたか、」 苛立ちながらも笑って訊いたら、獄寺も笑い返してくる。その割には拳をぎりぎりと握っている。いつ二発目がきてもおかしくはない。 「何もしてねぇよ」 まさに理不尽。獄寺はまた殴り掛かってきた。二発目をまた受けるほど俺は間抜けじゃない。すぐに交わして横から顔を殴る。すると獄寺はキッと俺を睨んで頬を抑えた。 「顔殴んなよ、野球バカ。綺麗な顔に傷がつくだろうが」 「それはこっちの台詞だ。先に顔殴ったの獄寺だろ、」 綺麗な顔は認めるが腹の虫が収まらない。獄寺もそれは同じらしい。殴られてからしゃがんでいたが立ち上がり、臨戦態勢に入っている。俺も獄寺をじっと見つめた。 掛かってくるや否や蹴られそうになり腕で受け止めた。明日には痣になりそうだと考えながら、足を避けて獄寺に掴みかかる。顔を殴ろうとしたら避けられ、腹を殴られた。歯をぎりぎりと噛み締め、すぐに獄寺の胸倉を掴んで、額に頭をぶち当てた。痛い。獄寺も相当痛そうでよろけた。今がチャンスだと思い、殴り掛かろうとした。 「山本ッ、獄寺くんッ」 ツナの一声で俺はぴたりと動きを止め、そちらを見た。かなり怒っている様子だ。獄寺もそれを察したようで、姿勢をぴしっとあらためた。 「ここをどこだと思ってるの」 俺と獄寺は顔を見合わせた。お互いタキシードを着ている。殴り合ったせいでかなり乱れてはいるが。 「ダンスパーティーの会場だよ、」 紳士はタキシードを、淑女はドレスを着ている。そう、ここはダンスパーティーの会場だった。俺たちの周りで紳士淑女が迷惑そうにしている。ツナが到着するまで二人で待っていたのだけれど、何故か突然獄寺に殴られて今に至る。 「わりぃ、ツナ。でも獄寺が突然殴ってきたもんだから」 「は、俺のせいなすんのかよ。十代目、コイツが悪いんです」 本当に理不尽だ。俺は断じて悪くない。ツナは相当呆れた顔をしている。 「二人とももう良いよ。帰って。護衛は雲雀さんに頼んだから」 ツナの後ろに更に呆れてもはや無表情になっている雲雀が立っていた。どうやら獄寺のせいで今日の仕事がなくなったらしい。減給になりそうだ。最悪だ。 「十代目ッ」 自分でやらかしたくせに獄寺は泣きそうな顔をしている。ツナはそれを一瞥して、手でしっしっと追い払う。まるで女王様の様だ。 「ほら、獄寺帰るぞ」 「ったく野球バカのせいで…」 「何言ってんだよ、んとに」 獄寺を引っ張り連れて帰りながら、また殴りたくなるのを必死に抑える。 「お前、何、生理かなんかでいらいらしてんだろ」 「ちげーよ、お前の顔見るといらいらすんだよ」 せっかくのダンスパーティーだから、女の子の一人や二人持ち帰るつもりがこんな面倒くさい男を引っ張り帰るハメになるなんて、本当に最悪だ。だから獄寺は友達がいないんだよ、と心の中で呟いた。 end 140114 main |