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a、愛してない



山本と獄寺



放課後、屋上でぼんやりとしていた。空は薄水色。今日は部活も休みで取り敢えず暇。獄寺に会いたいなと思ったら、ちょうど扉が開いた。期待外れの女の子。茶色っぽい髪をした子で、俺の知らない子だ。他のクラスの子かな。

「あ…山本君…、」

こっちは知らないけど、あっちはこっちを知っているらしい。俺は彼女の顔を見詰めた。

「その…私、」

来るなり何かと思えば告白だろうか。案の定告白だった。

「山本君の事、好きなの」

彼女は顔を赤らめる。言われてもどうしようもない。けど、今は暇だし、付き合ってもらおうかと考えた。俺は女の子に手を伸ばす。ぐっと引き寄せて口付ける。舌を絡めたらいやらしい水音。腰に回した手を徐々に下へと下ろしていく。太股を撫でたら細い身体が震えた。下着にまで手を這わせたら、もう濡れてる。獄寺を抱きたいと思いながら彼女を押し倒す。抵抗もしない。お前なんか好きじゃない。彼女の秘部はぐちゃぐちゃ。獄寺の白い肌とか赤らんだ顔とか、喘いでる姿を思い浮かべながら彼女を抱いていた。

「…獄寺を抱きてぇな、」

微かな呟きも喘ぎ声の中に消えた。

不意にがちゃりと扉が開いた。獄寺だ。俺等を見ていやらしい笑みを浮かべた。

「お楽しみ中にわりぃな」

「別に楽しんじゃいねぇよ」

獄寺は俺の言葉を無視してフェンスに寄り掛かって煙草を吸い始めた。紫煙は空に溶けて、匂いだけが残る。獄寺の匂い。

「続けてろよ、後ろ向いててやるから」

「んじゃ遠慮なく」

彼女にも煙草の匂いが染みてきて変に興奮してきた。俺は彼女の中に出した。彼女もイったらしい。ずるりと彼女から離れた。長居する気はない。彼女は改めて顔を赤らめる。

「ほんとは獄寺抱くつもりだったのに」

俺が小さく笑ったら、平手が飛んできた。ぱしりと良い音を立てる。片頬がちょっと痛い。彼女はすぐ暇潰しに使われたのに気付いたのだろう。服を正してすぐに屋上から出ていった。

「ばーか女ったらし」

「獄寺が相手してくんねぇからだろ」

「俺のせいかよ」

獄寺は煙草をくわえてちらりと地上を見た。次に俺を見ると笑った。

「お前、ヤらせろよ」

獄寺の唐突な発言に少し迷った。獄寺なら掘られても良いかなとか。

「んー、いいぜ」

「マジか」

「愛してるから」

獄寺は短くなった煙草を手離して俺の方まで来るとキスをした。ぶたれた頬を白い指が撫でる。

「嘘くせぇ」

獄寺は俺に背を向けるとフェンスに上った。安全と危険の境目に立つ。俺は呆気に取られて声が出ない。

「俺は愛してねぇ」

白昼堂々と、天使みたいに手を広げた獄寺は、



そのまま落ちた

















俺は呆然としてから地上を見た。真っ赤な血でも見るかと思ったが、そこには何も無かった。獄寺の姿は無かった。
















獄寺が飛び降りてどうなってしまったかというと、空の星になったか地の砂になったかというわけではない。俺が一階の保健室に行けば何にもならずにそのままの姿でいた。獄寺曰く、俺みたいに屋上ダイヴをしてみたかったらしい。だから保健室のオッサンに可愛い女の子五人紹介する事を約束して下からどうやってだか受け止めてもらい、保健室に入ったそうだ。どうやって受け止めてもらったのかは二人の秘密との事だ。
これで流石の俺も寿命が縮まった。不健康な獄寺と寿命が揃った気さえする。

「なあなあ獄寺、」

「ん、」

獄寺は保健室の丸椅子に座りながら俺を見た。

「愛してる」

「愛してない」

また同じ答え。獄寺なりの愛してると受け取って取り敢えず満足した。

「死ぬときは一緒な」

「道連れだアホ」

「屋上ダイヴにしよ」

「高いとこからな」

「並盛で一番高い屋上から、」

「や、イタリアで一番高い屋上から」

出来れば、永遠に地につかないところで。落ちながら果てを知らずに死にたい。どれだけ二人が別々の道で迷い歩いても最期は、

「おい、隼人出掛けるから保健室の留守は頼んだぞ」

「わーったよ」

最期は二人一緒。

保健室のオッサンは俺等にひらひらと手を振って出ていった。オッサンが出たと同時に獄寺は立ち上がって俺を引っ張ってベッドまで連れてくる。

「俺の事愛してるんだよな」

言われながら押し倒された。マジで掘られるかも。というか獄寺の目はもう既にヤる気満々だ。

「え、ちょ、さっきの嘘…うぁっ、ぁ」





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end





090513
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