六道×獄寺 窓に雨粒が伝い流れる。部屋の中は薄暗い。眠っている間にどうやら雨が降ってきたようだ。隣には温い温度をした肉の塊。冷たくも、熱くもない。 「起きてんだろ」 素っ気なく、無愛想に、話し掛ける。藍色の髪が無造作に顔にかかっている。恋人だけれど、キスをして起こすなんてこともせず、ただぶっきらぼうに。 いつもこいつは狸寝入りしていると信じている俺は、そう言ってみたが、どうやら本当に眠っているらしい。 「骸」 こいつ隣で寝ている。皮膚に穏やかな寝息を感じた。耳には雨の音と規則正しい呼吸の音。思わず小さく笑った。目を開けば、口を開けば殺伐としたこいつの心が露呈するのに、目も口も閉じているとそれは微塵も感じられない。その目は世界を哀れんで、悲しむ。その口は世界を哀れんで、嘆く。 幸せなのかもしれない。 眠っているその時が。 眠っているこの時が。 「殺したくなる」 唇を微かに動かしたくらい小さく呟いた。その時、骸の睫毛がぴくりと動いた。少しずつ、目を開けて、雨の音を聞くように動きは一瞬止まり、また目は開かれる。 「隼人、」 目を開けてしまった。俺の名前を口にしたその口が開いてしまった。赤と翠の目をじっと見詰めた。綺麗なのに。綺麗なのに。 雨の音が煩い。窓ガラスに雨粒がぶつかり音を立てる。 目を瞑れよ、耳を塞げよ、口を噤めよ、幸せになれるから。 心の中で呟いて、何も言うことなしに、キスをした。骸は何も知らないまま嬉しそうに俺を抱き寄せて、キスを甘んじて受ける。 雨は止まない。雨は滴る。世界に降り注ぐ。小さな薄暗い部屋で、幸せが逃げないように、見逃さないように、乱暴に、でも静かに、そっと、そっと。 end 120609 main |