シャマル×獄寺 自分の家なのに、そこで自分の居場所を見失って、俺はシャマルの家に来た。合鍵でドアを開けたら玄関には二つの靴が。一つはシャマルがいつも履いている靴。もう一つは赤いエナメルの靴。女が来ているのだと分かった。それでも躊躇なく家に踏み込む。居間に行く途中にある寝室からは女の喘ぎ声が聞こえる。生々しい声が耳にこびりつく。それに吐き気を覚えた。声を掻き消す為に、心を落ち着かせる為に俺は台所で珈琲を淹れた。珈琲を片手にベランダに出ると夜風が俺を包む。夜風は決して優しくない。そっと俺に触れては見捨てていく。どうせ見捨てるのなら触れないで欲しい。 目に涙が浮かんだ。 どれくらい時間が経ったか…夜は深海の様に深い闇に堕ちた。涙はもう乾いている。 「一人で何やってんだ、隼人」 シャマルの声が背後から聞こえたと思ったら後ろから抱き締められた。どうやら女は帰ったらしい。 「…触んな」 背後から抱き締められると、身を委ねてしまいそうになる。それは決していけない事ではないのに、体はそれが危険だと言う。 「良いだろ、お前の誕生日の日くらい」 さっきまで女を抱いていたこいつが覚えている事に驚いた。もう忘れていると思っていたのに。 「ケーキ、冷蔵庫に入れておいたのに食べてねぇんだな」 言いながらシャマルがするりと離れて冷蔵庫からケーキを取り出してテーブルに置く。 俺はベランダを後にしてケーキを目前に椅子に腰掛けた。シャマルは向かいに座る。ケーキと共にワインも置かれる。 「隼人の誕生日に乾杯」 グラスとグラスが耳に心地好い音を立てる。一口飲むとワイン独特の味が広がった。 ケーキを食べている内に酔いが回り、ふわふわとした感覚に陥る。 「…今年のプレゼントは何が良いんだ、」 プレゼントなんてくれた例の無いシャマルが珍しくそんな事を言う。プレゼントは何が良いのだろうか。自分に一番足りない何か 「抱いてくれよ、シャマル」 「…正気か、」 正気じゃない。狂気が身を包んでいる。 ただ、愛されたい。 結局俺はさっきまでいた女のように喘いだ。馬鹿らしい。 それでも俺は何故か満足して、シャマルの腕の中で目を閉じた。 end 120407 main |