獄寺×六道 「こんばんは」 夜中の三時半、隼人の家に訪れた。理由は特に無し。何となく隼人に会いたくなったと言うのが理由なのかもしれない。迎えてくれた隼人は最高に不機嫌だった。 「…何がこんばんはだ。夜と朝の狭間だ」 「では何と言えば良いんですか」 「お邪魔してすみません」 夜も朝も関係無いじゃないですかと言いたくなったが、これ以上何か言えばどうなるものか。取り敢えず部屋に上がらせてもらう。いつも通り殺風景な部屋。それに倦怠感を纏ったラジオの音。その中で隼人は何を考えていたのだろうか。 「…起こしたわけでは無さそうですね」 「どうだかな」 「何を考えてたんです、」 隼人は一瞬目を見開き、再び冷静に戻ると微かに笑った。でも目は笑っていない。確かにそこには殺意か宿っている。 「お前を殺そうと考えてたんだよ」 「殺しますか、」 「骸、歯食い縛れ」 言われた瞬間殴られた。頬からじわじわと痛みが伝わってくる。その痛みは本来なら苦痛へと変わる。でも僕は違った。その痛みがじわじわと快感として伝わってくる。隼人もまた、痛みを与える事が本来の苦痛であるのに、快感へと変わっているのだ。殴られて飛ばされた体は棚にぶつかり、乗っかっていたラジオが反動で床に落ちた。ラジオからはノイズが零れてきた。僕もその隣に倒れる。頬も背中も痛い。僕の目には白い天井だけが映っている。 「痛いの、好きだろ」 僕の視界に、隼人が映る。首に長い指が巻きついて呼吸を難しくした。呼吸の仕方を忘れたかのように、僕は唯涎を溢す。その口をも隼人は塞いでしまった。首を絞めていた手はやがて首筋を撫でて鎖骨を辿る。ゆっくりとした快感が全身を廻る。 ノイズの中に喘ぎ声が交じる。 「っあ…ぅ…くっ、痛い、ですっ」 「だから、何だよ」 奥を突かれて言葉が詰まる。圧迫感に呼吸が詰まる。隼人の熱い息が耳元を擽った。 「やめ、てっ…」 逃れられないものに抗ってはみるものの、それは無力で。 結局流されて、喘いで、精液独特の青臭い匂いの中に倒れていた。 「お前さ、少しは逃げろよ」 「何からですか、」 「沢山のものから。それと俺から」 「…」 「マゾヒスト」 知ってますと力無く呟いて、隼人から顔を背ける。いい加減逃げねぇと俺に殺されるぞ、と隼人は溜息を吐く。 「殺して下さいよ」 隼人は笑う。殺意の欠片も無い目も笑う。そして、殺さねぇよ、と言った。 「サディスト」 「知ってる」 隼人も力無く笑った。ラジオは力尽きてノイズも消える。いつの間にか朝陽が上ってきたらしい。微かにカーテンから光が漏れる。サディストとマゾヒストはキスして、白い光に溶けた。 end 120407 main |