貴方を沢山知りたいから | ナノ
貴方を沢山知りたいから



山本×獄寺

西様へ



獄寺君が教室に駆け込んで来た。真っ先に俺の前に来ると泣きそうな顔をした。

「十代目、聞いて下さいよッ。昨日山本が部活終わって俺の家に来たんで焼きうどんを作ってやったんですよ。それで山本に焼きうどん好きか嫌いか聞いたら、んー…普通なのなって言うんですよ。アイツ好きなもの沢山あるからてっきり焼きうどんも好きなのかと思ったら普通って言うんです。普通っていうのはつまり嫌いじゃないですか。普通というのはそもそも良い意味じゃないです。傷付けない為に曖昧に言う普通は相手を傷付けるばかりなんですよ。俺は少なくとも傷付きました。だからこの様な事が起きない為にも、山本図鑑を作るべきですッ」

「…はあ」

「早くしないと俺と山本の間にクレバスが出来ちゃいます」

「…く、くればす、」

よく分からないけど山本と獄寺君夫婦はいつも不思議な事を言い出す。今日の獄寺君の言っている事をまとめると、山本に焼きうどんを作ったが普通と言われたので山本の好きなものを知る為に山本図鑑を作るといったところだろう。

「十代目も協力して頂けませんかッ、」

「…山本図鑑ってどうやって作る…の、」

獄寺君曰く、山本の基本データと生い立ち等があれば出来るらしい。図鑑らしい図鑑を作るみたいだ。

「はよっ、二人とも」

山本が教室に入ってきていつも通りの笑顔を見せる。獄寺君のいつも困ったり悩んだり怒ったりしているのとは随分掛け離れていて平和だ。だからこそ二人一緒にいられるのだろうけど。

「山本、身長幾つだ」

「え、突然何だよ…、えーっと…177くらいかな」

獄寺君はいつの間にか眼鏡を掛けていて、黒いノートに次々と質問をして書き込んでいる。以前にヒットした映画の主人公が持っていたノートに酷似している。もしかして山本の名前を書いて殺そうとしているのかと思ったが、そういうわけでもなさそうだ。中身を一応見たら普通にデータが書いてあった。時間の指定もしていないし、書いてから結構経ったから大丈夫だと思い、安心した。

「…よし、十代目、基本データはとれましたよッ」

やっと山本が自分の席に着いたら獄寺君が俺に耳打ちをする。出来たデータを見せられた。身長、体重、スリーサイズらしきもの、視力、聴力、握力、その他諸々。凄く詳しい山本の情報だ。女子に売ったら高く売れそうなくらい。

「凄いね…。次はどうするの、」

「図鑑ですから、図が必要です」

「…そうだね」

「俺が授業中に図は全部描きます。十代目は山本の写真を撮って下さい。このボンゴレ最新式カメラをお使い下さい」

獄寺君から渡されたボンゴレ最新式カメラ。見た目は普通のカメラだった。

「あ、いつ撮れば良いの、」

「授業中にお願いします」

「…え、」

獄寺君が席に着くと同時にチャイムが鳴って俺は有無を言う事も出来ずに慌てて席に着いた。実は山本の席は隣だ。写真撮り放題といえばそうだが、流石に怪しい。試しに隣の山本を写真に写してみた。

「あ、撮れた」

音が出ずにどうやら写真が撮れる、盗撮するには持ってこいなカメラらしい。それでも少しびくびくしながら写真を撮る事に俺は成功した。安堵してカメラを鞄にしまって獄寺君を見ると、時々山本をちらちら見ながら懸命に絵を描いている。出来上がりにあまり期待は出来なさそうだ。
授業が終わると獄寺君は真っ先に俺の所に来て、絵を見せてくれた。期待をせずに見たから良かった。最早山本ではない。でも一生懸命描いた跡が残っているので何も言えない。

「あ、山本だね」

「はいっ、頑張ってみました。写真の方は…」

「結構撮ったつもりだよ」

「有難う御座いますっ」

獄寺君にカメラを渡すとにこにこと嬉しそうだった。この笑顔を見たら、山本の考えてる顔とか笑った顔とか寝顔とか沢山の山本を撮った甲斐があったかなと思えた。

獄寺君は刑事みたいに山本から色々と聞き出してはメモをする日々を続けていた。一週間程してようやく図鑑が出来たらしい。レポート用紙が和英辞典程の厚さで束ねられていた。中身をぱらぱら見せてもらったらかなり詳しく書いてあった。生い立ちまでもちゃんと書いてある。

「頑張ったね、獄寺君」

「あ、有難う御座います。…山本、やっぱり焼きうどんも好きみたいです。普通に好きって言ってました」

「…焼きうどん、」

「ほら、最初焼きうどん普通って言われたから山本図鑑作り始めたじゃないですか」

「あ、ああ…そうだったね…」

「それが聞きたかったんです」

「…はあ」

その後獄寺君は山本図鑑を腕に抱えて頬を紅潮させながら山本の元へ行った。凄く幸せそうだった。

「山本、今日は焼きうどんにするぞ」

「お、やった」

獄寺君が結局何をしたかったのか分かったような分からなかったような、変な気分になった。それでも山本と獄寺君が取り敢えず幸せそうだから、まあ何でも良いかな、と思えてしまった。



end





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