幻想を愛し殺す | ナノ
幻想を愛し殺す



山本×獄寺 十年後




今日は俺と獄寺が付き合い出した日だ。もう付き合って八年となる。
俺はこれから獄寺の部屋に行く事となっているので、時間を見て彼の部屋に行った。獄寺の部屋はマンションの最上階で、其処からの眺めがとても良い。時々其処に住む獄寺を羨ましく思った。俺はと言えば獄寺と真逆でマンションの一階に住んでいる。広い事と野良猫が時々来る庭が自慢であった。
部屋に来ると獄寺は珍しく自分からキスをしてきた。猫の様に悪戯な、何か企んでいる様な目で俺を見詰める。

「もう八年も経つとはな。こんなに生きるとは思ってなかったな、お互い」

皮肉な笑みを浮かべる獄寺に俺は苦い笑みを浮かべる。獄寺はいつも俺の命を喰おうとする。隙を見せると、その隙間に爪を立てて裂いてしまいそうな。

「折角の記念日だから…、受け取ってくれるだろ」

獄寺は俺に真っ赤な薔薇の花束を渡した。薔薇は幾本も束ねられ、ひらひらと赤い花弁を散らしている。

「愛してるぜ」

ずしりと重みの有る花束を受け取った瞬間、何かがきらりと光って落ちた。銀色のナイフ。落ちる途中、鋭利な刃が俺の皮膚を引っ掻いた。ことりと床にナイフが落ちる。俺は浅過ぎる傷を見た。赤い血が滲む。獄寺は残念そうな顔をする。

「…しくじったか」

「しくじったって…、また殺す気だったのかよ」

以前任務の時にも銃を此方に向けて撃ったと思ったらぎりぎりで外し、しくじったと言い笑った。獄寺が本気になったら標的を外す筈等無いのに。

「ちょうどお前を殺せる具合にナイフを入れたつもりだったんだがな」

「まさか。外すのも計算済みだろ」

「…さあな」

妖しげな笑みを浮かべたと思うと、俺の腕を手に取り、腕に滲んだ真っ赤な血を真っ赤な舌で舐めた。背筋がぞくぞくする。俺の血を舐める獄寺の顎を取り、深い口付けを交わす。血の味。飢えた獣の様にお互いを貪り、キスに溺れていく。軈て身体中を愛撫していき、セックスをする。激しく。


獄寺が俺を殺したい理由が分からなくもなかった。
俺も今、獄寺を殺したいと思っているから。


試しに白い其の首を絞めてみた。快楽に流される獄寺は涙を浮かべた虚ろな目で俺を見ている。喘ぎながらゆっくりと背中に回していた手を俺の首に遣る。殺意を込めた目で俺を見ているのに力だけは入らない様だった。

「…っ…ゃま…もと…っ、も、だめ…」

「…っ」

首を絞める力がぎゅっと強くなった次の瞬間力が緩んで手が離れた。俺は彼の中に白濁を吐き出した。獄寺は殺意を消して何処を見るわけでもない目から涙を溢した。
俺はその涙を掬って舐めてみた。しょっぱかった。

熟、俺と獄寺は歪な関係にあると思える。
いつから線は歪んでいったのか…、

俺にも獄寺にも分からない。

唯、一つ分かるのは俺も獄寺も互いを愛しているという事。

もしかしたら、互いに幻想を描いて愛しているのかもしれないけれど。



end





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