雲雀×六道 よく晴れた日曜日。朝早く起きて身支度をし、朝食を取り、洗濯をし、いつも通りの朝を済ませた。窓から外を見たら太陽がきらきらしている上、青い空が広々と広がっている。今日はバイクで何処かへ行こうと思った。 行く当ても無くバイクを走らせる。びゅんびゅんと風が吹き抜けていく。髪の隙間を通り抜けた。一人で過ごす休日は最高だと思えた。 が、しかしそう思えたのも束の間だった。 道路に誰かが飛び出してきたのだ。子供ではない。背が高かった気がする。どんっと音を立ててぶつかった。 何とか僕は無傷だけど相手はどうだか分からない。もし死んでたりしたら風紀委員でその事実を揉み消そうかと思った、が、相手は生きていた。その上、相手は知り合いであり僕の恋人だった。 「うっ…痛いですよ、恭弥君…」 容態はかすり傷程度だが、骸は涙目になっている。 「…何してるの」 「恭弥君を見付けたんで、気付いたら飛び出してました」 骸は屈託の無い笑みを見せる。僕は溜め息を吐いた。たまたま学ランのポケットに入っていた絆創膏を少し怪我をした場所に貼り付いて、腕を引っ張って立たせ、バイクの後ろに乗っけた。なかなか二人は重たい。 「恭弥君、海行きたいです」 「…海、」 彼は海に行きたい様だ。次は海に飛び込んで戻って来なさそうな気がしたが、海岸までバイクを走らせる事にした。 風が吹き抜ける。背には人がいるせいで温かい。肩に骸が顔を埋めている。そのうち眠ってしまって力が抜けてバイクから落ちやしないかと思った。よく考えてみるとしょっちゅう危なっかしい事をしたり、口走ったりする骸が何だかんだ心配になっている事に気が付いた。そんな僕は重症だ。 「君、疲れてるの」 「…うーん…まあ、普通に」 「そう」 背中で骸は力無く笑った様に思えた。 「…しっかり捕まってないと振り落とすからね」 「分かってますよ」 ぎゅっと腰に回されていた腕に力が入る。僕は心の底で安心をして、加速した。痛いくらい風が向かってくる。 海に着いたのは空が橙色になってからだ。間違いないと思った道を走っていたつもりだったが、道を間違えていたらしい。骸が勘でこっちじゃないかあっちじゃないかというのに付き合ったのも間違いだった。 人気の無い海は海より他に何でもなかった。海は海。それでも微かな切なさと親しみを感じるのは何故だろうか。夕陽をきらきらと受けては何処か遠くへ光を流していく。 骸は靴を脱いで橙の海に足を浸すと僕に向かって手招きをするから、波打ち際まで来た。 「温いです」 「…そう」 靴を脱いで自分も足を海に浸してみると、足の裏にさらさらとした砂の感触がすると共に海水が足首までを微かな温かさで包んだ。何とも言えない変な気分になる。 「…むくろ、」 「何ですか、」 名前を呼んでみただけで特に言う事もなかった。空けられた空白の場を取り繕うのは嫌だったから、キスをする。骸が驚く顔を横目で見てから目を閉じた。 僕の耳には波音と、時々聞こえる自動車の音しか聞こえていなかった。 キスから解放してやると顔を真っ赤にした骸がいる。そんな骸を見詰めながら、たまには二人で過ごす休日も悪くないと思えた。 end 120407 main |