山本×獄寺 獄寺は目元を紅く染めて俺の名前を何度も呼ぶ。腰を揺らめかせて、やがて銀髪を振り乱して魚の様に喘ぐ。体を震わせてぐったりと俺の胸の中に倒れ込むと微かに幸せそうに笑みを浮べる。そんな獄寺をベッドの中で抱き締めた。 真っ白な光が差し込む朝、俺は獄寺より先にいつも目が醒める。獄寺はシーツを抱き締めて柔らかな表情で眠っている。眉間に寄せられる皺も、今は見当たらない。 獄寺が起きる前に朝食の用意をしなくては、といつも思う。それは義務では無いけれど、義務的に朝食を作り始める。獄寺はいつもパンにオリーヴオイルを付けて食べるので、パンをトースターに入れる。それをぼんやりと眺めていると、獄寺が起きて来た様だった。 長いシーツを腰に巻いて、まるでフラメンコの衣装の様に纏っている。その姿が何処か無垢で、卑猥なものに思えた。 「おはよう、獄寺」 「…ん、はよ」 トースターが小さな音を立てる。こんがりとパンが焼けていた。真っ白な皿に乗せて、小さな皿にオリーヴオイルを注いで、テーブルに出したら、獄寺は酷く幸せな表情をする。こんな顔、俺以外には見せないのだと思って嬉しくなる。 椅子に腰掛けてぼんやりと俺の顔を見てからパンを千切りだす。俺は向かいの席に腰掛ける。ふと獄寺はオリーヴオイルの付けられたパンを俺の口に突っ込んだ。 「んぅ…」 「俺、これで出来てんだ」 そう言いながら獄寺はまたパンを口にする。べっとりとオリーヴ色を付けて。どうやら獄寺はオリーヴオイル付きパンで出来ているらしい。思えば確かに毎日これを食べている。 「それだけ、」 「違う。あとは愛で出来てんだ」 俺は自分の為に用意した御飯を口にする。獄寺の言葉に少し驚いて箸を咥えながら見つめる。 「お前からの、愛で」 獄寺はパンを残さずに食べ終えて椅子から立ち上がった。ベッドの方へと歩き出す。白くて長い布が床をゆっくりと這っていく。 「だから、お前がいなくなったら俺は死んじまうんだ」 そう言って振り向く。俺はどうしようもなく嬉しくなってくる。誰かに必要とされることは嬉しいことだけれど、獄寺に必要とされるのが一番嬉しい。 「俺は何で出来ていると思う、」 とてもとても簡単な問題。 「俺だろ」 あっさりと答えられてしまった。そして笑われる。ベッドにうつ伏せになる彼。腰に巻かれたままの純白のシーツはまるで人魚の下肢の様だ。そこでぱたぱたと泳ぐ彼がとても愛おしい。 やっぱり俺は獄寺で出来ている。血や肉なんかじゃない。獄寺で出来てるんだ。 そう確信して俺は彼の額にキスをした。 end 120407 main |