海に沈むように | ナノ
海に沈むように



ディーノ×獄寺+ビアンキ



仕事が一段落ついたので、日本へ来た。此処に来た理由は唯一つ。恋人に会う為。今の恋人は八歳年下の少年。今まで沢山の愛人がいたのだが、彼を好きになってからというものどの女とも別れた。勿論痛い目にあった。でも彼を一途に愛しているから、それくらいどうってことはなかった。
久しぶりに来た日本の空気はイタリアと大分違う気がする。でも似ているようにも思える。それはきっと同じ地球の上に日本もイタリアも存在するからだと思って納得した。

隼人の部屋に来た。彼自身で選んだ彼の栖は彼らしい洒落た部屋。インターホンを押すと、すぐに勢い良くドアが開いた。目の前に立っていた俺の額にがつんと当たる。額がじんじんと痛む。

「おい、大丈夫か、」

「だい…じょうぶ」

痛みにしゃがみ込む俺を心配そうに隼人が見ている。前髪を掻き分けて赤くなっているだろう額を隼人がそっと撫でたと思ったら、ちゅ、と聞こえたと同時に柔らかな唇の感触がした。

「はやと…、」

「…わ、わりぃ…つい…」

「会えたのが嬉しくて、」

「ち、違うっ。ほら、早く中入れ」

隼人は顔を赤らめると眉を寄せて俺を引っ張り、部屋に入れた。整然とした玄関で彼を後ろから抱き締めたら振り返って、見つめ合う。自然に距離が近くなり、キスをする。段々と深く、それに意識を集中させる。それが為にドアが開いた事に気が付かなかった。隼人が目を丸くした瞬間ドアが開いた事に気が付いた。

「人様の弟に何してるの、」

隼人は既に腹を抱えて俺の腕の中に倒れていた。背後にいたのは隼人の腹違いの姉、ビアンキだった。すぐにポイズン・クッキングを顔面に受けると思ったが、違った。彼女は溜め息を吐いて、俺等を見つめた。

「…どうして、この子は離れた場所に行ってしまうのかしら、」

「………、」

「寄りによってこの男」

俺に敵意の籠った目を向ける。再び溜め息を吐いて、居間へ行く。俺は隼人をソファーに寝かせる。隼人は眉を寄せて魘されていた。ビアンキは冷静な目で彼を見詰めると、白い指で彼の頬を撫でた。

「貴方が強引に隼人に詰め寄っているわけじゃないでしょうね、」

「まさか」

「…そうよね。…いつまで経っても私は彼に好かれないのね。…どうして、シャマルにツナ、それに貴方を…」

ビアンキは三度目の溜め息を吐く。微かに目が潤んでいる様に思えた。でも、瞬きをしようともしない気の強い彼女に俺はハンカチを渡す事が出来ない。重い沈黙が流れる。

「もう、帰るわ。居ても邪魔なだけだもの」

嘆くと椅子から立ち上がり、俺に背を向ける。

「…いつか分かってくれるさ」

下手な事を言ってしまったと思った。

「いつかっていつよ」

強い口調でそれを言い残すと部屋から出ていった。彼女の背中を見た瞬間、いつまでも良い男にはなれないと思った。ふと服の裾が引っ張られるのを感じて振り向くと隼人が起きている。

「…腹違いの姉弟なんて、他人同然なのに、どうして拘るんだ」

「……他人と思えねぇからだろ、」

隼人は翡翠の目を丸くしてから眉を寄せて俯いた。

「俺とお前も他人だろ、」

「他人じゃないっ…、」

「…そう思うのと同じじゃねぇかな…ビアンキも」

半ば泣きそうになりながらも心の奥で納得したようだった。腕が背中に回され、ぎゅっと抱き締められる。小さな温かみを感じた。
目の端に窓から見える空。もう既にアドリア海の青に染まっていた。

「…続き、しよ」

隼人にキスをする。深く深く。海に身を沈める様に。



end






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