獄寺×綱吉 トリコローレ、トリコロール。緑白赤の猫と青白赤の猫。二匹の猫がじゃれあっている。全くもって奇妙だ。俺は暫く其れを眺めていた。状況が把握出来ないんだ。トリコロールの猫がぴょんとトリコローレの猫から離れて歩き出す。取り残されたトリコローレの猫はそいつを追い掛ける。何か意味があって彼等は行動しているのだろうかとぼんやりと考えた。未だ状況が分からない。 そんな最中、白い二本の足が二匹の猫を踏み潰した。少しの恐怖から目を瞑る。そっと目を開けて、其処に残っていたのは色のついた液体。白い足に緑、白、赤、青、白、赤。其の足の持ち主は、セーラー服を着た、雲雀さん。驚いて声をあげた。でも雲雀さんは気付いていない。確かに此方を見ているのに。軈て雲雀さんはしゃがみこむ。鮮やかな色の液体を見詰め、其れに手を浸した。そして両手で色を掬って口に注ぎ込んだ。唇から其れが溢れているのも知らずに夢中で。そしたら溢れる液体と一緒に雲雀さんも溶けていく。慌ててそれを止めようとするのに感触も無しに其れ等全て、手からすり抜けてしまった。 俺の目の前に黒い水溜まりが出来ていた。俺は其れをじっと見詰めた。雲雀さんは何処に行っちゃったんだろうか。 どれだけ時間が経ったか、黒の水溜まりがそわそわし始めた。すると、しゅるしゅると蜘蛛が出てきた。黒くて大きな。いっぱい出てきたと思ったら糸を吐き出す。段々と出来てくる黒い像。黒い像はまるで人間の様だ。何処か見覚えのあるシルエット。 其の像は不意に衝撃を受けたみたいに何かを吐いた。緑の大きな石。きらきらと光って、黒い像を照らした。もしかしたら俺も照らされているのかもしれないけれど。すると、黒い像と緑の石の影が出来た。影の方が鮮明で。あ、山本と獄寺君。二人は神妙な顔をして向かい合っている。徐々に距離が近付いて、キスをした。俺は慌てた。だって獄寺君は俺の恋人なのに、なのに。 ぐるん。 急に俺の視界は反転した。山本と獄寺君と同じ場所にいた。下に黒い像と緑の石がある。よく分からないけど取り敢えず獄寺君に腹が立ってきて、二人の側に詰め寄る。 「十代目、」 「ツナ、」 口より先に手が出た。ぱちんと獄寺君の頬を叩いた。次の瞬間、目の前に獄寺君がいない、と思ったら小さな獄寺君がいて、頬を押さえて泣いていた。 「ぅあああぁっ十代目がぶったああぁっ」 「ちょ、獄寺君っ」 「ツナ、獄寺泣かしちゃ駄目じゃねぇか」 不意に低い山本の声。大人の山本がいた。手にはきらりと光る銀の刀。 「お仕置き、な」 刀の冷たい感触が俺の首元に。目を見開き、山本を見たら、もう山本じゃなくて黒い像。 黒い像が刀を振り上げて、 「うああああっ、」 俺は目が醒めた。…夢。安心した。隣で眠る獄寺君を見た。昨日体を交えてから眠ったんだった。もう一眠りしようと思った時に気付く。ベッドが広い。壁が無い。次にまた驚いた。獄寺君の隣に骸が眠っている。その隣に山本がいて、雲雀さん、ディーノさん、シャマル、ランボ、京子ちゃん、ハル…、知人が長い長いベッドに眠っている。ぶるりと体が震える。目を凝らして一番端に眠る人を見た。 俺が、眠っている。 するりとベッドを脱け出して一番端まで足音を立てずに行く。 眠っている俺の前に立った。眠っている俺はゆっくりと目覚めて俺を見た。すると、不意に憎悪を表した。俺の首を両手で掴む。苦しい。口から何か出そう。 「…ぅぐ…ぁ…っ」 吐き出したのは真っ赤な真っ赤な薔薇。口の中が痛む。赤い薔薇が血のように見えてくる。不意に其れを拾う白い指。 「十代目、落とし物ですよ」 獄寺君は拾った薔薇をもう一人の俺に差し出す。愛してます、と囁きながら。 「ありがと、獄寺君」 寂寥感が胸に広がり、軈て俺は意識を失った。 次に目覚めたのは夜の繁華街だった。色とりどりのネオンがきらきらと自己主張する。此方においで、と。女は色鮮やかなドレスを纏い、男は色鮮やかなスーツを纏い、女の手を引く。何処か変な光景。其の中に一人、女を連れていない男がいた。長身で、黒いスーツに黒いシルクハット。シルクハットから覗く髪は、銀色。不意に声を掛けたくなる。 「あ、あの」 「…何でしょうか」 獄寺君の声。ゆっくりと、ゆっくりと振り向く。獄寺君じゃ、無い。 狼。 俺はごめんなさいっと一言言い走り出した。暗い道を走る。歩いていく男女は此方を振り向く。 皆、顔が、ライオン、牛、猫、兎、馬、キリン…動物。恐い。 不意に体が落ちた。何故かマンホールが開いていたのだ。 「うあああああ」 「うあああああ」 どすん。 ベッドから落ちて体を打った。 「だ、大丈夫ですか、十代目っ、」 隣にいた獄寺君が慌てて俺を起こす。銀色の髪、翡翠の目。ちゃんと獄寺君。本当に今度こそ安心した。 「大丈夫」 俺は獄寺君にキスをした。温かな感触。確かに獄寺君。確かに現実。 俺は長い長い夢から醒めた。 後から見付けられる赤い薔薇の花びら。 今は未だ、知られる事なく。 end 120406 main |