山本×獄寺 珍しく獄寺は俺に話が有ると言って神妙な顔をした。何となく其の話の内容に察しがついて溜め息を吐いたけど、俺は部活の帰りに獄寺の部屋に寄った。相変わらず獄寺の部屋は殺風景で、テレビと雑誌と机にキッチン…。必要最低限のものが揃っている。俺が部屋に来たとき、獄寺はぼんやりとテレビを見ていた。表情を変えない顔は生きたものからは遠い程綺麗で、まるで石膏像の様だった。 獄寺は俺に気が付くと微かに笑い、俺に飲み物を取ってこいと言った。相も変わらず人使いが荒い。冷蔵庫を開けてみるとそこはとてもがらんとしていて、飲み物の入った瓶を取り出して湯飲みと一緒に持ってきた。其れを獄寺に出したらまあ満足そうな顔をしてそれを飲み始めた。俺も飲むと、その飲み物は酒だった。喉が熱くなる。やがて体をゆっくりと巡る。 獄寺は漸く話し始めた。 「俺さ、好きな奴、出来たんだよ」 ずきん 「はあ」 「隣のクラスの…さ…」 獄寺の話は長い。短く纏めると、獄寺は隣のクラスの女子を好きになった。其の子は校内でも有名な美人。綺麗な黒髪、雪の様に白い肌、切れ長の目(因みに雲雀ぢゃない)。これぞ大和撫子と言える子だ。時々擦れ違うと微笑み掛けてくれるのが凄く魅力的だと自分は思っていた。 「んでさ、告ったんだよ」 「え、」 獄寺の思い切った行動に驚くと共に、次の答えが分かって何も言えなかった。 「フラれた。好きな奴いんだとよ」 変な安心感。 「相手見付け次第殺してやらぁ」 獄寺は唇を噛んだ。惚れられてる奴は災難だなと思った。 獄寺は溜め息を吐く。相当酔っているに違いない。話しながら随分飲んでいた気がする。 「…飲み過ぎた…ぅ、気持ちわりぃ…」 ふらふらと獄寺は立ち上がってトイレに行った。 何となく胸が苦しい。獄寺がまさか誰かに恋をしてフラれてなんて考えてもみなかった。正直に言うとショックだ。何で、こんなに…。 ぅ、え…げほ…ぅぇえ… 獄寺が嘔吐している。 そういえば、何で俺は獄寺がこんな話をする様な気がしたんだろうか。もしかしたら何となく獄寺を目で追っているからなのかもしれない。 …ぅぐっ…うっ…ぇ…… そういえば昨日の獄寺は何も変化が無い様で何処か落ち込んでいた。そういえば何気なくあの子と擦れ違った時獄寺は嬉しそうだった。こんなに獄寺を覚えている。 もしかして、 「あー気持ち悪かった」 獄寺がトイレから出てきた。キッチンで嗽をする。何度も。 「もう俺寝る。話はこんだけだし。…泊まってけよ」 獄寺は掛け布団を持ってソファーに寝転がる。一体俺は何処に寝るのだろうか…。やっぱり床かな。 「おやすみ」 獄寺は一言言って眠ってしまった。 俺は気付いた。 獄寺の事、好きだって 明日の朝に言おう。そうしよう。 俺は床に寝転がった。獄寺の穏やかな寝息を聞いていたらいつの間にか俺は眠りに落ちていた。 end 120406 main |