綱吉×獄寺 笑っても、心だけは鎖に縛られたみたいに重く苦しい。心から笑えない。君の前にいるのなら心からの笑顔を見せていたいのに。 今日、俺はいつも通り獄寺君と下校する事になった。山本は部活。正直に言うと、山本がいてくれた方が気が楽だ。二人っていうのはなかなか大変で、話題が尽きた時の妙な沈黙が俺は好きじゃない。 それはそれであって、俺は獄寺君が好きだ。友達として好き、という意味ではなく。でも獄寺君はどうだか分からない。十代目という何かが絶対で、嘘でも好きと言ってくれそうで、怖かった。 今日は、何とか獄寺君が他愛ない話をずっとしていてくれる。何処かで安心しながら獄寺君の話に相槌を打った。 「この間、煙草買いに行く時に不良に絡まれたんスよね。おまけにそれが十人くらいいまして、勿論全員倒したんですけど、その時に指輪を一つ失くしちまって…。しかもそれ、凄く好きな指輪で、俺なんかには似合わねぇ様なやつで…。それを十代目にいつかお渡ししたかったんです。んでも…失くしちまったんで…すみません…」 「いや…、獄寺君に似合わないなら俺にはもっと似合わないよ。…それより、あんまり喧嘩はしないで、ね」 「…はい。…でも……ほんとに…お渡ししたかったんですが…」 獄寺君の声が弱くなって、終いには口をつぐんでしまった。俺は何も言えなくなって、口を閉じる。 通りすがる女子高生、疲れた顔をした男の人、ミイラみたいなお婆さん、並中の生徒…色んな人が、個々にそれぞれの道を歩いている。一人一人の人間。でもそれらは今の俺から見たら、ただの風景に過ぎない。ただ見えるのは、獄寺君だけ、だった。 横断歩道の前で立ち止まる。信号はちょうど赤に変わってしまったようだ。獄寺君は黙ったままだった。トラックや車が勢い良く前を通る。 雑音、雑音、雑音 その時に、何か聞こえた。隣をちらりと見たら、獄寺君の口は小さく開いていた。 「……だい…き…で…」 「…え、」 獄寺君の声が、雑音に混じる。それは、黒い砂に紛れた白い小石みたいだった。埋もれて聞こえない。 「じゅ…め……す…」 バイクが大きな音を立てて走り去る。信号は未だ赤のまま。どうしようもない苛立ちを感じた。 車道の信号が黄色になる。赤になる。 横断歩道の信号が青になる。 「…獄寺君、」 「十代目、好きです」 「……え、」 「こんなのいけないって、よく分かっています。ご迷惑なことも、よく分かっています。でも、それでも…」 「…君は、分かってないよ」 「…え、」 「俺は迷惑だなんて思ってないし、いけないなんて思ってない。それに、俺が獄寺君の事、好きってことも、分かってない」 獄寺君の顔が真っ赤になり硬直する。その獄寺君の手を取って、横断歩道を渡る。早くしないと赤になっちゃう。 これを渡ったら、もう後戻りは出来ない。後悔は、していない。だって君がこの道を作ってくれたのだから、俺は迷わずに進む。君の手を握って。 「…俺、何にも分かっていませんでした」 横断歩道を渡りきる。信号はまた赤に変わる。車やバイクの音も、今は喧しく感じない。 「もう分かってくれたの、」 「…はい」 握った手から伝わる温もり。指にひやりとした感覚。薬指に嵌められる獄寺君の指輪。それに口付けたら、少し火薬の匂い。 進むだけ堕ちる、 それが、恋で、 end 090108 main |