六道×山本 俺は電車に乗り込んだ。ダチと大人ぶって都会に出てみた。都会は汚さ、見せ掛けの華やかさ、倦怠感がはびこっていて気持ちが悪かった。都会は大人に似ている。俺はそう思った。 一人で電車に乗って辺りを見回した。皆疲れた顔をしている。気持ち悪い。多分俺も同じような顔をしているんだろう。 窓に手を置いて外を見た。今、彼はどこにいるんだろう。骸は今どこにいるんだろう。瞬間窓に骸が映った気がした。驚いて振り向いたが誰もいない。座席を一通り見たり座席に座り眠る骸がいた。急いで座席の前に行くが、その席には誰もいない。きょろきょろと辺りを見回して見た。隣りの車両で骸がこちらを見て笑う。電車に揺られてよたよたしながら隣りの車両に行く。骸はいない。どうしようもなく不安になっていく。先程いた車両より人が少ない。広告だけが賑やかだ。俺は歩き続けた。乗客は歩いて行く俺に気を留める事もなかった。また隣りの車両にまた骸はいた。硝子越しに見えた瞬間急いで隣りの車両に行く。乗客は先程よりもっと少ない。骸はいない。広告は鮮やかさがなくなっていた。不意に電車が停車した。気付けば駅だった。何人もが降りて行く。終いには誰もいなくなった。骸も降りて行ってしまったかもしれない。 立ちすくむ俺。 走り出す電車。 隣りは一番前の車両だ。俺はゆっくりとその車両のドアを開けた。乗り込んだ瞬間、後ろの車両が切り離されて、それらが闇に呑まれた。思わず息を飲んだ。 「駅員さんっ」 すぐに運転席に向かって声を掛けた。 「何ですか」 「後ろの車両が」 言いかけて思わず息を飲んだ。駅員と思っていた人間は、まさに骸だった。振り返った瞬間藍と赤が突き刺さる。 「……骸…」 「お久しぶりです」 電車が緩やかに止まる。運転席から出てきた骸に抱き付いた。 「何これ意味分かんねぇよ」 「まあ良いじゃないですか。君にただ会いたかっただけです」 「嬉しいけどわけ分かんねぇ」 「馬鹿ですね」 「馬鹿だよ」 「何にやにやしてるんですか」 「妄想」 情事の後、隣りにいた骸が顔をしかめた。首に腕を回してみる。骸がいない日数の方が断然多いわけだからすっかり俺には妄想癖がついてしまった。駅員の格好した骸なら格好良いに違いないとか考えてみたらノンストップ。骸が隣りにいながら妄想なんてちょっと中毒かも。 「僕がいながらまったく…」 「やっぱ本物が一番だな」 「当たり前でしょう」 「まあな」 軽くキスをしてみる。妄想の中のどんなキスよりも大好きなほんとのキス。 俺ってば幸せ者。 end 090826 main |