池 | ナノ




山本×綱吉



ツナの家を訪ねたら、その日はツナの他誰もいなくて、静かだった。ツナにメールをしたら、鍵は開けとくから勝手に入っていいよと言っていた。俺はゆっくりとツナの部屋に続く階段を上る。

「ツナ、いる…、」

ドアを開ける前に声を掛けても返事はなく、俺はゆっくりとドアを開けた。
ツナはドアを背にして床にぺたんと座っている。どこかいつもと様子が違うから、そっとそばにいく。

「どうしたんだ、」

心配になって顔を覗き込めば、ツナは泣いていた。俺は驚いた。あまり泣き顔は見せないから。

「なんかあったのか、」

ツナはゆっくりと顔を上げて涙を溢す目を俺に向け、腕を伸ばして抱き付いた。その表情にどきりとする。

「…俺の、心の中に池が、あるんだ」

ぽつりぽつりとツナは言葉を溢す。俺は抱きしめながら、音に似た言葉に耳を傾ける。

「池の水は、いっぱいになると溢れてしまう。池の周りの泥とか、土と一緒に流れてく」

ツナの髪を優しく撫でる。凛々しくみんなを引っ張るボスで、なのにこうして泣いている姿は小さな子供みたいで。

「武は…雨だ」

「雨…、」

「全部全部流してくれる。…池の水も、全部」

背中を撫でながら、考える。ツナの心の中の池を。深さ、水の色、泳ぐ魚。
涙が服に染みて、じんわり温かい。

「…ありがとう」

「どうして、」

「雨を降らせてくれるから」

ツナは涙の残る目をごしごしとこすって、俺に笑って見せる。

「どういたしまして」

俺も笑ってみせれば、嬉しそうにする。大切なものを見るように、ツナは俺に視線を注ぐ。

「だいすき」

雨上がりのような甘い匂い。
虹を見たときのような心持ちがした。



end





111014
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