山本と獄寺 死 十年後 「その本棚にある赤い本にだけは触るなよ、絶対」 獄寺は俺に向かってそうキツく言った。獄寺の書斎には沢山の本があって、その中でも特に赤い本がよく目立つ。 「俺が死んだら、あの本、お前にやるよ」 そう言って笑った獄寺の顔が今でも離れない。 同盟を組んでいたファミリーが敵対しているファミリーに寝返ったという情報が飛び込んでくるなり、俺は寝返ったファミリーの鎮圧に向かった。獄寺はその根元の敵対しているファミリーを叩きに行った。敵がなかなかしぶといと、根元を叩きに行った奴等からの連絡を聞きつつ、俺が率いる部隊も苦戦をしていた。 五日が経ち、ようやく鎮圧することができた。戦いも一段落すれば、また落ち着いた日常が戻るだろうと頭の片隅で考えつつ、アジトへ戻った。ボンゴレのアジトに帰ってきたものの、空気が何となく重い。敵対していたファミリーも倒したと聞いたのに。 ツナの部屋に入ると、そこには険しい顔をしたツナがいた。 「ツナ…、どうしたんだ」 そう尋ねても何も答えない。何かを言おうと口を小さく開くものの俯いてまた口を閉ざした。ツナから話すのを待とうと、じっと見詰めて待つものの、一向に口を開かず、ついにしびれを切らしてしまった。 「なあ、どうしたって言うんだよ、俺が作戦で何かしくじったのか。敵倒してでけぇ問題でも起きたのかよ、なあ、ツナ」 「獄寺君が死んだ」 「え、」 「獄寺君が死んだ」 「うそ、だろ」 「そんな嘘吐いて、どうする」 頭の中が真っ白になった。ツナは大粒の涙を零した。よく、意味が分からなかった。でも、ツナは獄寺が死んだって言った。不意に部屋の扉が開き、振り返るとリボーンがいた。 「獄寺は敵に撃たれて死んだ。部下を庇った時に銃弾を受けたらしい」 死んだ状況を聞いたって信じきれなかった。でも、獄寺は死んだ。いなくなってしまった。頭の中にはいつも獄寺がいて、俺を叱って、時々笑って、馬鹿にされたりしながらも優しくて、 翌日になって、俺は獄寺が使っていた書斎に行った。本は何も変わらずに並んでいる。主がいなくなろうが、そこにあるもの、そこに書かれている事実も何も変わらなくて。そこに書いてあることをたとえ書き直すことが出来たとしても、死んだ人間は帰ってこない。もう二度と戻らない。 俺は、獄寺が触るなと言っていた赤い本を手に取った。手触りが心地良い。表紙を開くと言葉が書かれていた。 もし、私が自ら死を選んだら、叱って欲しい もし、私が不慮の事故で死んだら、泣いて欲しい もし、私が寿命を迎えたら、笑って欲しい 赤い本は分厚いくせに、それしか書いていない。表紙のページにぽつぽつと染みを作る。紙は水分を吸って少し歪む。視界もぼんやりと歪んでいく。 笑ってもらうつもりでいた。 笑ってやるつもりだった。 泣くなんて思ってもいなかった。 笑ってやりたかった、 end 110814 main |