ミロのヴィーナス | ナノ
ミロのヴィーナス



獄寺×京子 流血



その姿はあまりに美しかった。

俺の過失。京子が連れ去られた。寄りによってかなり慈悲に欠けるファミリーに。俺は冷静でいたものの、心中では冷や汗をかいていた。十代目にお頼みして単独で、そのファミリーのアジトに乗り込んだ。慈悲に欠ける相手なら、こちらも平等に慈悲を捨てる。アジトに乗り込んだ瞬間、襲い掛かる数人の雑魚。銃を構えて倒していく。辺りは血の匂いが充満する。ひたすら京子の身を案じながら歩みを進めた。敵を一掃したかと思われる頃にファミリーのボスが出てきた。酷く嬉しそうな顔をしている。その上、血塗れ。持っている刀に付着した血を見詰めてから虚ろな顔をして俺を見た。背筋が冷たくなる。嫌な予感。

「…獄寺隼人。聞いていた以上に端整に出来た男だな」

「…ふざけんな。…京子は何処だ」

「彼女ならこの奥にいるよ」

俺は男の背後にある扉を見た。男はにやりと笑う。虫酸が走る。

「……君も同じ姿にしてやりたいな」

虚ろな目が俺を舐める様に見る。一種の狂気に反吐が出そうな感覚を覚える。男はゆっくり近付いてきた。すぐに右腕に向かって撃つ。男は喚きながらも左手で刀を振るった。未だ俺は美しい死に際を見た事が無い。足掻くだけ足掻く。生きる道を探して。

「死ね」

男は何かを叫ぼうと口を開いた。頭蓋を撃ち抜く。愕然とした表情をして倒れる。慈悲に欠けるのは俺の方だ。

男の死体を蹴飛ばして急いで扉を開けた。

血溜まり。

「京子ッ、」

今にも気を失いそうで、今にも気を違えそうな両腕を無くした京子がいた。その姿に息を飲んだ。そして急いで止血剤と痛み止を飲ます。急いで救護班を呼ぶ為に携帯を取った。

「急いで此方に向かえッ、今すぐにだッ」

俺はジャケットを肩に掛けて抱き締めた。痛みに唸る声しか聞こえない。男に斬り落とされたのであろう両腕が転がっているのを見て目を伏せた。





京子は両腕を亡くしたが、一命は取り留めた。病室で俺は京子をずっと看ていた。

「…京子、」

「ねえ、獄寺君」

「…ん、」

「両腕無くなっちゃったよ」

「…悪い」

「獄寺君は悪くないよ。……ねえ、私、まだ綺麗、」
京子の言葉に息を飲んだ。蜂蜜色した目が俺をじっと見る。

「…綺麗だ」

前にも増して。両腕の無い京子を見た時、一番に思ったんだ。美しい、と。あまりに美しかった。





京子は間もなくジャンニーニに義手を作ってもらった。随分と精巧なもので、本物の腕にそっくりだった。

両腕の無い姿は束の間の美しさだった。


まるでミロのヴィーナスの様にさえ見えた。



end





090708
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