本当に一人なのか | ナノ
本当に一人なのか



山本と獄寺



今日何の日か、うちの学校の女生徒なら知らない筈が無い。野球部の期待の星、山本武の誕生日だ。朝から下駄箱には溢れる程のプレゼントや手紙。休み時間ごとに囲まれ、黄色い声に答える。
よくまあ愛想良く振る舞っていられるものだ。だが、俺は知っている。周りがいなくなり、去っていく女生徒の後ろ姿を見ながら一瞬だけ見下した目線を投げ付けることを。

静かになった放課後の教室で俺は教卓の中でぼんやりしていた。山本は机に積まれたプレゼントを見て呟いた。

「めんどくせぇな」

俺がいることにはまるで気付いていないらしい。
アイツの女との噂はよく聞く。メール一つで女を落とせるらしい。不器用な俺には出来ない、し、染まりたくはなかった。今日は誰と過ごすのだろうが。

「…どいつもこいつも勘違いして、馬鹿みてぇ」

馬鹿にするような、嘆きのような、諦めのような。
小さく笑った。

「皆…嫌いだ」

声が震えていた。

「可哀想になあ」

教卓の中から立ち上がる。山本が俺を見て狼狽した。次の瞬間笑顔を見せた。

「なんだ、獄寺か」

「嘘くせぇ笑顔はやめたらどうだ、目から水分漏れてるぜ」

山本は上を見る。

「雨漏りかな」

「一階でそりゃねぇだろ」

泣きそうな顔で笑う。傍に行く。涙が鮮明に見える。

「今日は誰と過ごすんだ、」

「…一人」

「もらったもん全部捨てちまえよ」

「…」

山本は小さく頷いた。

「………誕生日、おめでと」

「…サンキューな」

笑いながら涙を零した。プレゼントの上に滴が落ちる。きっと溶けていく、沢山のプレゼントが。
こいつが本当に欲しがっているものをあげたいと、思った。それは物じゃなくて、



end





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