この日の為に、大嫌いな野菜だって食べたし、この日の為に、不器用ながらに化粧の練習をしたの。
猫被りだって計算し尽くした恋だって何だっていい。
私は、貴方に近づきたかった。
話したかった。
見つめられたかった。
だから今、それを叶えるために、綺麗な女の人を連れて歩いている貴方に声をかけます。
「ぁ、あの・・・・・!」
「あ"ーー?」
私の声に気付いた貴方は、振り向きざまに私がくらくらしてしまう程の美声で何とも濁点が目立つ声を発したのだった。
私の姿を見た、先程から居る綺麗な女の人は彼を見上げ、「誰ぇ?」と尋ねている。
貴方のサングラス越しの瞳が私を捕らえているのがわかる。
私を見据える貴方は「誰だテメーは」なんて言っているような表情をしていた。
いや、多分実際そう思っているだろうが。
何せ、私が知っている貴方は、私を、知らない。
「神龍寺の金剛阿含さんですよね・・・?」
私は彼を見上げ、そう尋ねた。
尋ねる必要なんてない。貴方が阿含さんだということなんて本人に聞かなくてもわかるもの。
でも、何度も頭の中でシュミレーションした通りに言葉を並べていく。
「あー・・・そうだけど?」
あ。ほんの少しだけ、声色が変わった。そんな気がした。
金剛阿含といえば、アメフトと同じくらい、女遊びが激しいことで有名だ。だから、もしかしたら、呼び止めた私が女だったから、少し態度を変えたのかもしれない。
いや、変えてもらわなくては困る。
でないと、私の計画が狂ってしまうから。
「わ、私、日高月魅って言います。私、阿含さんの大ファンなんです。この前の試合も見に行きました。まさか、こんなところで本物に会えるなんて思ってなくて・・・つい、」
彼は少し驚いたような表情をしていた。・・・いや、実際サングラスのせいで、きちんと表情なんて見えないけれど、そんな気がしたんだ。
まぁ無理もないだろう。きっとこんな風に彼に話し掛けるのは私くらいだと思う。いかにも、本人が好きというより、ただのファンだというような、こんな感じの女は、そう多くないはず。
「わざわざ見に来てくれてたんだ。ありがとう。」
そう言いながら、彼はサングラスを外す。
「ね、良かったらさ、また見に来てよ。試合の日程とか送るからさ、アドレス教えてくれない?」
初めて生で見る、あの阿含さんの笑顔。素で胸の鼓動が早まったのがわかった。いつも試合で見てきた彼とは全く別な"顔"。
噂で耳にしたことがあったが、本当にすぐに女に手を出すんだな。この人は。でも、まだ。ここでアドレスなんて教えたら、私まで彼の遊び相手の沢山の女と同じになっちゃう。
「ぁ、はい。絶対また応援行きますね。でも、アドレスだなんて、そんな厚かましいこと出来ません・・・。少しでも話せただけで幸せです。これからも頑張ってください、応援してます。」
最後にペコリと頭を下げて私は彼とは反対の方向へ歩きだした。
「何だったんだろーね?あの子、珍しいよねー。阿含にメアド教えもしないなんて。向こうから話し掛けてきたくせに。」
「・・・・・・」
「ね、阿含ー?どーでもいーけど早く連れてってよー。」
阿含の腕に絡まろうとする女の腕を阿含はバッと振り払う。
「・・・面白ぇ女。」
目を丸くして驚く女を傍らに、阿含は薄ら笑いを浮かべてそう呟くと、自慢のその足で走りだした。
「月魅ちゃんっ―‐」
後ろから段々と近づく私を呼ぶ声。思っていたより早く聞くことが出来たようだ。やはり彼は私を追い掛けてきた。
「阿、含さん・・・?」
私は目を見開き、驚いた顔をつくる。この表情も少しでも可愛く見えるように、何度も鏡の前で練習をした。
貴方はさっきよりも数段美しい笑顔を私に向ける。
どんなに遊び人の貴方でもいい。今の笑顔は私だけに向けられた、私だけのものだから。
あぁ、あと少しで計画通り‐―
「顔に似合わず、面白れーことする奴だなぁ?」
笑顔を崩すことなく、彼は低い声色でそう言い放った。
「・・・ぇ?」
戸惑いを隠せず顔が引きつり、ボロが出始めた私を見るなり、彼の笑顔は、あの美しい笑顔からクツクツと卑しい笑みに変わっていった。結局のところ、その笑みにすら、キュンと心踊らせた私は大分末期なのだろう。
「あの・・・一緒に居た女の方は・・・?」
私は彼を見上げ、小さく尋ねた。
すると彼は面倒臭そうに口を開く。
「あんな女どーでもいいんだよ。」
途端、彼の大きな手が私の肩を抱き、グイッと引き寄せられる。
逃がさないつもりで力を込めたのかは知らないが、私は肩など抱かれなくとも彼から逃げたりするものか。かといって、この状態はとても幸せなので彼が自分から離すまでは掴まっていることにしよう。まぁ、到底力で適うわけもないのだが。
「俺を騙そうとした罰だよ、詫び入れな。」
そのまま彼が誘導する方に歩かされることになった。行き先など尋ねはしない。それほど野暮なことが他にあろうか。
私の計画通り事が進まなかったにしろ、私はこうして阿含さんと関わりを持てて、要するに結果オーライなわけで。
やっぱり天才にはペテンすら適わなかったが、凡才のこの私にしては上出来の結果だ。
天才金剛阿含が、凡才日高月魅に手を煩わす日は、そう遠くはないのかもしれない。
「・・・阿含さん」
「今更許せは聞かねー。」
「大好きです。」
彼が予期せぬ返答だったのか、彼は奇怪なものを見るような目で私を一目見て、そして笑った。
「そのタイミング・・・普通ねぇだろ。」
呟かれたその言葉に、私も思わず笑った。
計算尽くしのペテンの敗北
いつか勝ってみせるんだから
初、糞ドレッド小説!!あーもう、阿含さんかっこよすぎ可愛すぎ!骨ボキッて折られたいくらい好きです、ハイ。だってドレッドですよ、ドレッド←←
バカでエロい変態が好きな私←
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